(吹雪)微原作沿い・無口ヒロイン














 snowdrop 1














僕の幼馴染はある日を境に全くしゃべらなくなった。


物心ついたころには一緒にいて、アツヤと三人でよくサッカーをしたり


スノボにスキー、スケートなんかでよく遊んだりもした。


元々多く語る子ではなかったけど時々彼女の唇の端から漏れる笑い声が


たまらなく大好きだった。


さっき全くしゃべらないと言ったけど


正確には喋りたがらないという言い方の方が正しい。


だからやむおえなくという理由がほとんどだけど僕の前だけはその声を聞かせてくれる。


ただし普段の基本動作は相槌か表情を変えるか服の裾を引っ張るくらいなもの。


人見知りな性格も手伝ってか無愛想な印象を与えがちだが僕はそうは思わない。


例えば雪みたいにふわふわの髪の毛だとか、


僕とアツヤで一つずつプレゼントした花の髪飾りを大事につけててくれるトコとか、


僕が話してる時じっと見つめるボールみたいに真ん丸な褐色の瞳だとか、


たまに見せてくれる微笑んだ表情だとか、


寂しくなった時僕の手をぎゅって握ってくるトコとか、


かわいくて仕方が無くって。


でも。この気持ちは言わない。ずるいでしょ。


だって。僕知ってるんだ。


君が。


アツヤの事が好きだったってことくらい。









 +









カタカタと肩を震わせる二つの影。


繋がれた手で互いの体温の冷たさを感じあう。


一つは真っ白な髪に白いマフラーが特徴の男の子。


もう一つはこれまた真っ白な髪に水色と赤の花の髪飾りが特徴の女の子。


男の子の隣には地蔵が一つ。


女の子の隣にはサッカーボールが一つ。


二人を囲むその他の世界は一面真っ白で雪景色。


気付けば長い間この場所にいたらしく二人の頭には雪が積もっていた。


静かな銀世界にエンジン音が響いて女の子は握りしめる手に力を入れた。


異変の合図。




「どうしたんだ…?こんなところで」




一人のオレンジのバンダナをつけた男の子がバスから降りてきて


二人を見た後「乗れよ」と快い笑顔でバスを指差した。


白い髪の男の子はかじかんだ唇で震えるように「ありがとう」と一言言った。


女の子に関しては黙り込んだまま。


ただぎゅっと男の子の手を握っていた。




毛布を二人分かりて包まるようにしてバスに乗り込む。


バスの中には二人と年が近そうなメンバーが沢山いて


女の子はサッカーチームかしら、とすぐに思った。


サッカーボールを膝の上に乗せて女の子は一つくしゃみをした。




「まだ寒い?」


「…、」


「?」




同性だったから話しかけやすかったのか、左隣に座っていた


財前が優しい口調で女の子へと問いかける。


困惑したように男の子の毛布を握った仕草に


男の子はまったく…と内心思いつつも代わりに「ううん、もう大丈夫」と答えた。


続けて「ごめんね、この子人見知りするんだ」と付け加える。


ふうんと財前が漏らし女の子はだんまりした。




「雪原の真ん中で何してたの?」


「あそこは僕の特別な場所なんだ…」


「…」




少し目を伏せる。そして男の子は続けた。




「北ヶ峰っていって…」


「北ヶ峰?聞いたことあるぞ…確か、雪崩が多いんだよなぁ」


「…うん」


「ところで坊主。どこまでいくんだー?」




バスの運転手の問いに男の子はふ、と微笑んだ。


隣では女の子がボールを膝の上でころころして遊びはじめた。


決して話を聞いていないわけではないようだけど。




「蹴り上げられたボールみたいに只管真っ直ぐに…」




男の子は楽しそうに目を細めた。


またほんのすこしサッカーがしたくなっていた。














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