(吹雪)微原作沿い・無口ヒロイン














 snowdrop 10














「風になろうよ」




風丸がボールとともにあがっていく。その隣には早くも吹雪の姿があった。


一瞬風が吹いた。気づけばお向かいから吹雪がボールをカットしにきていて、


目を見開いた頃には彼にボールを奪われていた。マフラーがなびく。


咄嗟のことに驚きつつも染岡の一言で風丸は種を返した。




「スピードはお前だけのものじゃない!」


「吹雪無理するな!」


「こっちにまわせ!」




上から風丸、一之瀬、そして鬼道。一人で猛攻する吹雪。


スライディングでカットしに行く風丸を飛んでよけて、吹雪はマフラーに手を触れた。


いくよ、そうつぶやいた瞬間雰囲気が反転する。人格が入れ替わった。




「よっしゃあ!どけどけどけ!!」




DFの塔子、土門を糸も簡単に抜いて見せた。




「俺についてこれる奴はいないのか!?」


「勝手すぎるぞ…」


「僕ら、もう完全に無視されてますよね…」




まるで波紋のように。広がる。は肌でそれを感じて吹雪を見やった。


プレースタイルの違い。長くいるせいで慣れてしまっていたけど。


そんなことを考えていたとき染岡の罵声がグラウンド響き渡った。


が肩をびくつかせるのと、吹雪がボールから足を離したのは同時。




「お前な…一之瀬も鬼道もこっちにパス回せって声かけてんだろうが!」


「だって、僕いつもこうしてたし…」


「白恋じゃそうでもうちじゃそんなの通用しないんだよ!


 お前はライモンイレブンに入ったんだ…俺たちのやり方にあわせろ!」


「そんなこと急に言われても…そういう汗臭いの疲れるなぁ…」


「誰がくさいって!?誰が――」




喧嘩腰の染岡に対して土門と一之瀬が止めに入る。


なんともいえない立場のはただ苦笑しながら見ているだけしかできなかった。


確かに。世界のチームなんかを見ていると、吹雪のように


個人技を活かしたプレースタイルの選手を重要視するところもある。


しかし染岡がいいたいのはそれは白恋の中のことで雷門のスタイルではない、と。




「どんなにスピードがあろうと、こんな自分勝手な奴と一緒にやれるか!


 無理なんだよ…こいつに、豪炎寺のかわりなんて…」


「――それはどうかな。俺は吹雪に合わせるよ」


「お前何言って…」




風丸が意見を出した。染岡は驚きを隠せないでいたが風丸は続ける。


エイリア学園からボールを奪うために、吹雪のスピードは必要だ、と。


前に何があったのか、吹雪とにはわからない。けれど――。




「だったら、風になればいいんだよ」


「え…風?」


「おいで…みせてあげるから」




吹雪はそういうと校舎の裏手へと案内した。


大量に積もった雪の斜面でスノーボードができそうな場所だった。


雷門の面子には物珍しいらしく其々が感嘆の声を上げていた。


上のほうでスノーボードをスタンバイ済みの吹雪がいた。




「スノーボードか!」


「それでどうやって…」


「まぁ見ててよ。雪が僕たちを風にしてくれるんだ!」




体重を前へとかけるとすぐに斜面を下っていく。


全身で風を受け、まるで風の中を泳いでいるように軽やかだ。


雷門メンバーのそばにしゃがみこんではこっそりかっこいいな、なんて思っていた。


本当に、小さい頃からずっと見てるけど、かっこいいなぁ。なんて。いえないけどね。




「吹雪君は小さい頃からスキーやスノーボードが得意で、よく遊んでたんだって。


 走るよりも雪をすべるほうがもっと風を感じるから好きだって言ってた」


「風か…」


「…」




吹雪が白恋の皆に合図を送る。それをきっかけにサイドで用意していた


大きな雪だまを構えた部員たちが二人係で押し入れた。吹雪の元へと雪球が襲う。


あぶない、と円堂は声を上げたが吹雪は何事もなかったように雪だまを華麗によけていく。


軽い身のこなし。風を感じて。感覚を鋭くなっていく。




「すげぇな、雪だまの滅茶苦茶な動きを完璧に見切ってるぜ…!」


「吹雪君が言うには早くなればなるほど感覚が研ぎ澄まされて


 自分の周りのものがはっきりと見えてくるんだって…!」


「確かに早いよ!」


「この特訓面白そう!」


「ああ、俺もやりてぇ!」




ふふ、とは微笑んだ。


雪にしゃがみこみながら、ほんの少しだけ小さかった頃を思い出していた。









 +









いつも自分よりも前をすべる彼。


視界に映るのはいつも背中だった。


後姿ばかり追いかけて。


追いかけて。


遠くに行ってしまう気がして。


少し寂しかった。


ゲレンデをすべる。


髪が後ろに流れて。


世界だって後ろに流れて。


過ぎ去っていくのに。


最前線にいるのは僕で。


気づいたら。




追い抜かしてたんだ。って。




気づいてひとりぼっち。














inserted by FC2 system