(吹雪)微原作沿い・無口ヒロイン














 snowdrop 11














ゲレンデをスノーボードの準備を整えた雷門の面子が滑っていく。


経験者で上手くすべるもの。また初心者でありながらもバランスを取るもの。


雪だまになるもの、と様々ではあったがが上から見ている限り


徐々に上手くなっているところが見て取れる。皆飲み込みが早い。


たまに見上げる吹雪に手を振り返しては、はふふ、と微笑をこぼした。




ちゃんは滑らないの?」




木野が膝を抱えてたずねた。初めの頃は困惑していたものの、


彼女との溝はだいぶ埋まったようでは苦笑しながら首を横に振った。


そっか、と彼女も微笑んだ。









 +









スノーボードは当然ではあるがサッカーとはまた違った筋肉を使うスポーツだ。


円堂は慣れないスノボに苦戦しながら右肩を揉み解しながら


「風になるのって大変なんだな…」としぶしぶとつぶやいた。


日も暮れ、今日の特訓も終わりにして全員はお腹をすかせながら


廊下を歩いていた。マネージャーが夕食を準備してくれているらしい。




「しっかりしなよ。私は段々コツがわかってきたよ」


「うん、塔子さん筋がいいよ」


「問題は全身のバランスのとり方だな」


「ああ、スピードに乗る感覚さえつかめば一気に世界が変わると思うぜ」


「そうそう!その感覚わかる!」




冷たい廊下も賑やかになれば暖かく感じるものだ。それに教室のドアを開けると


美味しそうな夕食のにおいが鼻をくすぐって、空腹が増す。


食事は吹雪との分も用意されていて、それぞれが席についた。


成長期のバランスを考えた食事は少しばかり少なかったが、


勝つためだ、とキャプテンである円堂が言うとマネージャの言葉の


「30回噛む」をしっかりと守り、一同は手を進め始めた。




「…」




スピード重視の筋力をつけるための食事であったとしても、


は内心ほっとしていた。皆が少ないというこの量でさえも


少しがんばらないと食べきれないところだったから。家でならもう少し口にできるのだが、


やはり監督から言われた一言をだいぶ気にしているのだろう。


そして。そのことを吹雪に隠してしまったこと。それすらも後悔の種だ。


とりあえず、食べなくちゃ。









 +









お父さんに連絡してきます。


がそれだけ言って教室を出てから5分ほど。ただの電話であれば、


このうちの誰一人疑わない時間かもしれない。各自明日の練習に向けて


柔軟やストレッチ、お風呂など別行動になっている今ならなおさらだ。


けれど。




「…」




吹雪は気がかりでしょうがなかった。昼聞きそびれた件のこと。


本当に何にもなくて、気にしすぎだったならまだいい。でも、あれ以来


ずっと彼女の顔色が優れないことはわかっていた。スノボの時だって。


それに夕食の時だって、何か無理しているような…。


気がつけば歩き出している自分がいた。無意識に足が動く。きっと場所はあそこだ。


上からジャージを羽織って、きっと忘れているであろう彼女の分も。


そして目的の場所――彼女お気に入りの大雪原の木の下だ。


最もといっていいほど古くからある木で、彼女のベストプライスだ。


同時に、吹雪にとっても思い入れのある場所だったりする。




『――』




話し声が聞こえて咄嗟に吹雪は身構えた。聞き覚えのある声。声主を知っている。


でも――。自分の知っている声主はこんなにも喋っていただろうか?


しかもだれかと会話しているような口ぶりだった。暗がりで見えない。


おじさんと電話?その疑問はすぐに否定された。おじさん相手だったとしても


こんなに話すじゃないはずだ。…じゃあ。誰と?




『…うん……でも、わからない。ずっと考えてるけど……ないよ』


「(何の話をしてるんだろう?)」




彼女の独り言。こんな光景前にもあった。本当に偶にだったけれど。


悪いことだとは思いながらも吹雪はこっそりとは反対側の幹に歩み寄り


盗み聞きしていた。何より、出て行くタイミングを失っていた。




『…私、これ以上皆と一緒にいないほうがいいのかな…』


「――、(え?)」


『でも…!そうしたらアツヤ君との約束も――』


「――」




…今、何て言ったの?


頭が真っ白になるのを感じた。同時に熱を帯びて、思考も停止する。


彼女のために持ってきたジャージを雪の上に落として、バサリ。と音を立てた。


…アツヤとの約束?


その音にはっとなって彼女が振り返る。そして。吹雪の存在を知って、


大きく顔を歪ませた。咄嗟に手で口元を覆い隠すも、もう言葉は発信された後…


…ねぇ、




「僕に隠し事してるでしょ?」














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