(吹雪)微原作沿い・無口ヒロイン














 snowdrop 13














さんですね。少しお話が…」




吉良監督の言ったとおりだった。悩んでいたことが現実になった。


“エイリア学園のものが貴方を引き抜きに来る可能性があるので警戒しておくように”


おひさま園での日々は浅かったものの濃い時間だった。


目をつけられていたとしたら。と吉良監督は言った。


はじめは自惚れだと思った。自分なんて、力不足でいつも足ばかり引っ張って。


練習時間外に努力しないとだめだって。ずっと心がけてきた。その反面思う。


吉良監督に自分が評価されているということ。…まぁそれに甘えていたら


彼女は遠慮なくレギュラーから落とすだろうけど。




「我々はエイリア学園の志に賛同する者。貴方にお願いがありましてね」




上手くいえないけど、いやな感じがする。不吉な予感を漂わせた胸騒ぎが。


それに。この場所に存在する全ての霊、妖精たちが警戒している。


こいつは、敵だ、と。牙をむいてる。




「…」


「そうでした。貴方は話すのが苦手なんでしたね」




じり。と一歩踏み出す男。大の大人が三人がかり。はごくりと生唾を飲んだ。


いやな予感がびんびんしてる。女の自分の力じゃ、取り押さえられればアウトだ。




「ならば実力行使でいくとしましょうか…!」




でも。彼らは手段を選ぶという配慮はないようだ。


三人は計画済みのフォーメンションでさっとの周りを取り囲もうとする。




“吹雪君にだけは、話しておくべきだと思うわ”


ごめんなさい、瞳子姉さん。否。監督。




ざっと雪面を蹴る。


そしてくるりと彼らに背を向けて走り出した。


どくんどくんと鼓動が鳴り止まない。


でも。


大丈夫。


地の利ならこちらにある。




話すタイミング…潰しちゃったな。









 +









サイアクだ。




自分の感情を強引に押し付けて。


置き去りにして。


こんなのただの自己満足だってわかってたのに。


あんな風に。


あんな風に言ったら、彼女が塞ぐってこともわかってたはずなのに。


でも、許せない自分。


子供な自分。


待とうって決めたのは自分だった癖して。




サイアクだ。









 +









白恋中の校門を潜り抜けてしっかりと錠がかかっているのを確認した。


多分、撒けたはずだ。あれだけの山道で、しかもこの暗さなら。


白恋中の所在地はばれているかもしれないが、堂々と大勢の人数集う


この場所にあんな目立ちやすい格好で現れるとは思えない。


…これからは一人で行動するときは、気をつけなくては。


そう思ってちらりと脳裏をかすったのは吹雪の顔。いつも、助けてもらってばかりだった。




“僕はいつまで待てばいいの?”




待っててくれてたのに。私が、甘えすぎてたんだ。また。当たり前だって思ってたんだ。


とんだ勘違いだった。自分ばっかり悩んで、自分のことばっかりで。




ちゃん…?」




息もだいぶ落ち着いてきた頃。ふと見上げると木野がいた。


部屋の明かりがすっと雪の積もった地面を照らして。私を照らして。


待ってて、くれたの?こんな寒い中。ずっと。私を。


は大きく目を見開いた。大好きだったお母さんの影と重なって。


泣きたくなった。無性に。抱きついて。声を上げて泣いて。すがれたら。どんなに。


どんなに、幸せなんだろう。




「お帰り、ちゃん」


「…ぁ、の…ただいま…」


「もう遅いから心配しちゃったじゃない!ランニングでも行ってたんでしょ」




肩で呼吸を繰り返しているを見て少しばかり勘違いしてくれた木野。


はこれ以上心配かけないためにも素直にうなずいて、はにかんだ。




「皆もうお風呂入り終わっちゃったから後私たちだけなんだけど…


 よかったら一緒に入らない?あの、いやだったら無理強いはしないんだけど…」


「…!」




秋ちゃんは優しいな。気遣いや、言葉遣い、一つ一つが染み渡っていく。


昔の、優しかった頃の、お母さん、みたいだ。そう思って、頬をほころばせた。


手をぎゅって握ってこくこくと頷いてみせると木野の表情もぱっと晴れた。


お風呂の準備を整えて、二人で脱衣所に入る。長い時間外にいたから


だいぶ体も冷えている。このまま風邪を引いて熱を出したなんていったら洒落にならない。


は肩までゆっくり浸からなくちゃ、と心の中で握りこぶしを作った。


着ていた衣服は泥だらけで「どんなランニングをしたの…」と呆れられたけど、


は苦笑するしかすべはなかった。大雪原のこの時間帯の山道だ。


雪のせいで足場も悪いのに加え、視界もだいぶ悪かった。


木の根っこに引っかかったときもあったし、ぶつかる事もしばしば。


洗面台の鏡をのぞいてみればほっぺたに擦り傷なんてあってドキッとした。


やばい。傷残しちゃった。…誰にも心配されないと、いい…け、ど……。




「……、」




白い髪に指を当てる。


――ない。


士郎くんからもらった水色の髪飾りがない。














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