(吹雪)微原作沿い・無口ヒロイン














 snowdrop 14














じわっと頭が熱くなるのを感じた。大変だ。どうしよう。


士郎くんからもらった水色の髪留めがない。どうしよう。


赤いほうは、あるのに。どこで落としたんだろう。


きっと。追っ手から逃げていたときだ。どうしよう。


探しに行かなきゃ。でも。この夜道だ。絶対に見つかる分けない。でも。でもでも。


やっぱり。探しに行こう。明日朝いちで。夜中に雪が降らなければいいけれど。


絶対に見つけ出さなきゃ。私の宝物。大切な、贈り物。


明日。早起きしなくちゃ。









+









「えっと風丸君はね、とっても足が速いのよ。元々陸上部でね…それで…」




湯船に肩を並べて浸かる二人。


嬉しそうにチームメートの紹介をしてくれているのは木野だ。


せっかく楽しそうに話しているのに、自分が原因でこの場を重くさせたくない。


はきっぱりと今考えても仕方ないと割り切って、


木野の話に耳を傾ける。昼間の試合を思い返しながら、


少ずつチームメイトを覚えようと心がける。




「…ぁ、ゴーグル…の」


「あぁ、鬼道君?天才ゲームメーカーって有名で…」




鬼道、と心の中でつぶやいてみる。ポジションも私と同じMF。


天才ゲームメーカー、か。確かに司令塔のような一面は窺えた。


そしてもう一人のMF、一之瀬。彼もまたフィールドの魔術師と異名を持つ


プレーヤーだ。木野の話を聞いてはお湯をぶくぶくとさせた。


上手くやっていけるだろうか。課題は多そうだ。もっと努力しないと。




「吹雪君と、幼馴染なんだってね。吹雪君ってどんな人?」




ドクンドクン。脈を打つ。まるで早鐘。動揺してしまう。




「士郎君、は――」





優しくて――


“僕に隠し事してるでしょ?”


お兄さんみたいで――


“ずっとずっと、待ってようと思ってた”


小さいこともすぐ気が付いてくれ、て――


“けど僕はいつまで待てばいいの?”


嗚呼――


思わず唇が震えた。フラッシュバックするあの光景。言葉。すれ違い。


目頭が熱くなって、溜まっていたものがあふれ出す。




、ちゃん…?」




だめだ。急に泣き出したら。心配かけちゃうのに。泣き止め、泣き止め。


いつだって私は自分のことで精一杯で。涙がとめどなくあふれた。


自分の不甲斐なさに。整理の付かない気持ちに。彼に隠し事してしまったことに。


ぐしゃりと顔を歪ませて。水面にぽたぽたと雫を落としていく。




「…」




大きく目を見開いた。涙で瞳が潤んで視界が歪む。


木野が壊れ物を扱うようにそっと、抱きしめてくれていることに気が付くまで数秒。




「大丈夫、誰も見てないよ」


「…ふっ、…」




ぎゅっと目をつぶる。たまっていた涙が重力に従って下へ。落ちる。


誘われるように素直に。恥やプライドなんて捨てて。すがる。


やっぱり。秋ちゃんはお母さんみたいだ。


泣きはらしてぼんやりする頭では思った。


優しくて、あったかくて、全部全部受け止めてくれる。


懐かしいな。会いたいな。会えないけど。でも、会いたくないという気持ちもあって。




「(あぁ…)」




頭の奥がつんとする。もう何がなんだかわからなくなる。


そんな意識の中で気づいたこと。半分、嘘。気づいてた。


けど。


知らないふりをしていた。偽り続けていた。ずっと。ずっと。




「(士郎君の事、いつの間にか)」




好きになってたんだ。









 +









すっと、忍び寄る影。赤い髪に白いマフラー。姿は小学生。


吹雪アツヤだった。姿も服装もあのときのままだ。まるで時間を忘れたように。


部屋にある鏡に自分の姿が映らないことなんてもう慣れた。


自分はここにいるのに。まるでいない様に扱われる事なんて。


話しかけても、気持ちも、想いも、何もかも届かないことなんて。


もう慣れてしまった。


この開放されることのない孤独からの呪縛を少しでも和らげてくれるのは彼女だ。


幼馴染の。口数が少なくて、ぼーっとしてて、どこか頼りない女の子。


俺の存在に、まさか気づいてくれるなんて思わなかった。


小さい頃士郎と三人でよく遊んでいたけど。まさか幽霊が見えるなんて。


そんな素振り一回も見たことなくて。だから。嬉しかった。


彼女の負担はもちろんある。ひどく集中力を使う、ということ。


だけど。


伝えられなかった、この想いを。届けるのには十分な時間だった。




『――ずっと、好きだった』




――だから、


ひとつだけ。これが最後の約束だ。


×××。














inserted by FC2 system