(吹雪)微原作沿い・無口ヒロイン














 snowdrop 17














はぁはぁ。力の入らない、むしろ、感覚さえとうの昔に消えた指先で


彫るように削るように雪をはがしていく。確か。確か。と記憶を辿りながら。


は昨夜の記憶を頼りに小さな小さな髪飾りを探していた。


大雪原の中央。大きな木があるふもとのところ。落としたとしたらここなのに。


はぁはぁ。




「…」




じわり、と焼けるような感覚が指先を駆け抜けてははっとなった。


先ほどお湯で温めたばかりなのに。もう元通り。痛みが駆け抜ける。


は大切なものをなくした悲しみ、見つからない悲しみ、


その他にもいろんな想いが脳裏をよぎって瞳をぶわりと潤わせた。


震える指先を口の中に入れる。まるで氷を食べてるみたい。


なのに指先からの感触は相変わらず焼け付くような鋭い痛みだけだった。


吐息と絡ませながら「もう少しだけ、もう少しだけがんばって」と


指先に血を通わせる。ここで諦めたら、もう見つからない気がする。


見つけなきゃ。


探さなきゃ。


大切なもの。




ザッ。




雪を踏みしめる音がいきなり背後に聞こえて息が止まる。


全身の血がさっと引いていくのを感じた。




さん、昨晩はどうも」


「――」




逃げろ。


現状を理解する前に体が動いていた。離れるように後ろへ。


いきなりの事にふらつきながらもバランスを取り直して振り返る。


が。


いつの間にやら後ろにスタンバイをしていた一人の太い腕が視界を覆う。


有無を言わさぬままの行き場をふさぐように三人のエイリア学園の使徒が


取り囲んできた。一歩、一歩と迫る。バクバクとなった心臓が息苦しささえ感じさせる。


はぁ。はぁ。


冒頭とは異なった意味で肩を揺らした。




「元気なお嬢さんだ。…私たちは貴方と話がしたいだけなんですよ」


「…」


「貴方のことはいろいろと調べさせていただきました。


 話したがらない理由も――貴方の母親の事もね」


「!!」




ざわりと全身が粟立つ。


抉られるような不快感。


胸の片隅に押し込めていた小箱のふたが開かれる。


押し込めてもあふれ出て。


染まっていく。




痛みを伴う愛情。


器になると決めたあの日。


ちょっと不器用だったお母さん。


どうしてあんな末路を辿ることになったのだろう。


あの時の私は小さくて。


まだまだ子供で。


苦しみを取り除くなんてできるわけなくて。




「貴方は暗闇の中で願った。私に力があれば」




寂しかったのだと思う。


最初は。


取り残されて。


でも。


隣には私がいて。


「ママ、ママ」といっては手を握りたがった。


私も不安だった。


ママも不安だった。


知っていた。


ママが次第に優しくなっていっていたこと。


まるでとり憑かれたように過保護になった。


必要以上に外出することを嫌った。


どこか遠いところに行くとでも思ったのだろうか。


それとも私が彼女の元から離れるとでも?


逃げるとでも?


それももう闇の中。


彼女は死んだ。


私を殺し続けて。


自分を殺し続けて。


寂しさに押しつぶされて。


逝った。


最後の言葉はこうだ。




「真っ白になりたい」




代理ミュンハンゼンが周りに知れ、母と子を話してお互いの回復を待った。


母は自活できるようになるまで心理系の病院に。


そして私は昔母が世話になったという――吉良星一郎の元へ。


「おひさま園」それがそうだった。そこにはと同い年ぐらいの


両親のいない子供、帰る場所がないもの、捨てられた子といった様々な子供たちが


ともに生活している場所だった。初めは無気力なため壁を作っていたも次第に


打ち解けて、自分から何かしたがるまでに回復した。


笑うこと、そして話すことにはやはり抵抗を持っているようだったが、


心身の回復面だけいえば見て取れるほどだった。


そんなときだ。


「おひさま園」に母親の死去が告げられたのは。




私に力があれば。


ママが泣いているのが辛かった。


私に力があれば。


ママが望むことはなんでもやった。


私に力があれば――




「力がないから、貴方は大切なものを奪われた」


「――」




キン。


それは目が眩んでしまうほどの紫暗。


禍々しい光からは自分を引き寄せる何かを感じた。


アトモドリナンテ デキナイヨ


本能がそれを告げてる。


でも。


私は。


アイサレタイヨ。














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