(吹雪)微原作沿い・無口ヒロイン














 snowdrop 19














「――――ッ!!!」




息があらぶる。肩が上下運動を繰り返し、


おぼろげだった意識は徐々に平常心を取り戻しつつある。吐息が白い。


肌全身に突き刺すような冷気が襲う。ちくちく。ちくちく。なのに。


身体の火照りおさまらない。がたがたと身体を震わせているのに、


噴出すように流れる汗は当分とまりそうにない。


たすけて、たすけて、たすけて。


たった少し光に触れただけでというのに光は全身を一瞬に貫いた。


さっきからが悶えている理由はそれだった。


身体の中で何かが這いずり回っているような感覚。これが蝕む、といいことなのだろうか。


自分が自分じゃないようで気持ち悪い。激しい頭痛とともに眩暈さえ覚える。


両腕をきつく抱いてうずくまり、うずくまる


そんな反応に対して辛うじて見上げた使徒たちの表情は険しいものだった。


雪に額を突っ伏しながら、はほんのすこし唇を薄めた。


たった今によってはらわれたエイリア石は数m離れた場所雪の中に埋もれていたのだ。




「強情な人だ。苦しいでしょう。これさえあれば、楽になれるというのに」


「…、…」


「もう話すこともできませんか。ならば仕方ない」




ざく。と一歩歩み寄る使途の一人。はぁはぁと息を荒げる


奥歯をかみ締めて雪だまりと蹴って抵抗してみるものの、


当然のごとくたいしたダメージは与えられない。


それどころか「悪あがきを」とくすりと微笑まれたくらいだ。


地面を蹴ってなんとか間合いを伸ばそうとするものの、


とん、と背中に大樹の幹の感覚。もう逃げ場はなさそうだ。


一歩。また一歩。ゆっくりと詰め寄ってくる彼には一瞬


お母さんの影を重ねた。顔は笑ってるのに。内心そうでないことが肌を通じてよくわかる。


たすけて、たすけて、たすけて。


強く念じる。脳を掠めたのは初恋の人の顔。


大丈夫、と微笑んで頭をなでてくれる。優しい夢。温かい夢。涙で瞳がぬれる。


ぎゅっと目を閉じると溜まっていたものが


剥がれるように真っ白な雪の中に落ちていった。




「何をしている」




どくんと心臓が高鳴った。


聞き覚えのある声に神経が研ぎ澄まされた。


肌があわ立つ。


大きく大きく見開いた視界には少し霞んでいたものの、


彼の姿をはっきりと映し出していた。




「レーゼ様…」


「余計なことはするな。人質などなくとも我らジェミニストームが負けるはずがない」


「しかし…!」


「下がれ。これは命令だ」


「く…っ」




本当にしぶしぶといった雰囲気で使徒たちは消えた。


レーゼはしばらく目を合わせずに立ち尽くしていたが、


一歩一歩ゆっくりと雪に足跡を残すようにして歩いては、


弾き飛ばされたエイリア石のネックレスを回収した。


おぼろげにかすれていく視界。ついには音さえもログアウトしていく。


閉ざされていく。折角会えたのに。話したい、のに。


止めなきゃいけないのに。




「リュ…ジ、……くん………」


「…………」




精一杯の力をふり絞っては何とかそれだけいった。


レーゼはそれを沈黙で返した。


その瞳は少しだけ寂しげに見えた。


懐かしい人物を想うたった刹那の表情だった。


何かを懸命にこらえているようにも思えた。




「………」




ざく。ざく。


一歩一歩。今度はのほうへと距離をつめていく。


表情は見えない。あの言葉の後意識を失ってしまい、


今はがっくりと首が折れており前髪が顔にかかり表情を覆い隠してしまっている。


少しだけ目を細めてレーゼは引き寄せられるように歩み寄っていく。




「(初めて、声、聞いたな…)」




なんて、「緑川リュウジ」の思いを内側に閉じ込めて。押さえつけて。


こんな形で。会いたくなかったのに。


すっと頬へと伸ばされた手のひらはぴたりとすれる直前で静止した。




― アイスグランド ―




氷の刃が地上からレーゼめがけて伸びる。


それを寸前で飛んでかわしたレーゼは、


から離れる結果となり少し残念に思う。


しかし、表情には出さずに一点、


自分を狙った張本人でもある人物を見つめニヤリと微笑んだ。


面識はないが、きっと、彼女の、迎えだ。




「遅い到着だったな」


に何をした…?」


「…。くく…コイツはもう用済みだ。お前たちに返すとしよう」


「な…っ」




くるりと種を返すレーゼ。




「試合は3日後だ。精々足掻くといい」


「ま、待て――!」




追おうとするも、一瞬の光。目をつぶって開いた


そのときにレーゼの姿は見当たらなかった。


きっ、とレーゼが元いた場所を睨んだ後、


吹雪は彼女の無事を確認するためにすっとしゃがみこんだ。


触れた手のひらは氷のようにつめたい。手だけではなく体中だった。


真っ赤に腫れ上がった指先はもうとっくに霜焼けを通り越していた。


吹雪は渋い面持ちで彼女の両腕をとった。


そしてくるりと自分の体を反転させると自分の首に腕を巻きつけて


おぶるようにして持ち上げる。早く。早く。暖かいところに連れて行かなくては。














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