(吹雪)原作沿い・無口ヒロイン














 snowdrop 2














「いいな!その言い方…蹴り上げられたボールみたいに真っ直ぐに、か」



さっきのオレンジのバンダナの男の子は円堂というらしい。


どうやらこのサッカーチームのキャプテンらしく


快活な言動からは人の良さが見て取れる。


ころころと遊びながらポジションはどこなんだろう…とぼんやり思った。




「ねぇ、サッカーやるの?」


「うん好きなんだ!」


「俺もサッカー大好きだよ!」




ニコ。と二人が笑いあう。


ころころころころ。あ、気が合いそうな子だ。ころころ。


その時、ドドド、と音がして女の子の手からボールが転がり落ちた。


薄く口を開いて何も言わずに閉ざす。


窓の外を見ると黒い影が写っていた。あ。でた。




「雪だまりにタイヤを取られた…ちょっと見てくるわ」


「駄目だよ、山親父が来るんだ」


「…山親父?」




ザッ。窓ガラスを大きなクマの手が爪を光らせ叩きつけられた音。


全員山親父は初めてみたいで驚きの表情を浮かべていた。


ガサガサとバスを揺らす山親父。




「…」




足元に落ちたボールを拾って立ち上がろうとした時、


男の子がそれを制すようにボールを取り上げてニコリ。


彼の意図を察して女の子はそのまま席に着いた。





揺れるバス内で動揺を隠せない声が投げ交わされる。


女の子は吐息を指先に掛けながら静かに窓の外を眺めていた。


揺れが収まったときマネージャーの一人が


男の子が居なくなっていることに疑問を思う。


ドッ、と今度は後方からバスが揺れて一人を除いて一同が驚いた。


はぁ、と指先を温める女の子。


ちらり。窓の外を見ると熊が静かに倒れていくところが見えた。




「もう出発しても大丈夫ですよ」




サッカーボールを片手に男の子がバスの中へと戻ってきた。


その様子に円堂と栗松が「まさか…(でやんす)」と苦笑する。


他のメンバーもだよね、と言い放ちバスは再び発進された。


席に着いた男の子は女の子の膝の上にボールを返して、


女の子は「おかえり」と言わんばかりに淡く微笑んで


温めておいた手のひらを彼へと差し出した。


ぎゅ、と繋ぐとたった短時間だったというのにすごく冷えていた。




「ありがとう、すごく温かいよ」


「…」




はにかむ女の子。ほんのり色づいた桃色のほっぺた。すごく柔らかそうだった。


ころころ、とずっと見ていたのが恥ずかしかったのか


女の子はごまかすようにボールで再び遊び始めた。


バスが雪道を走りだす。


小一時間たったところで雪景色に見慣れた風景を見つけて


男の子は女の子に相槌を打った。




「本当にここでいいのか?」


「うんすぐそこだから」


「じゃあ」


「ありがとね」




言葉はなかったけど女の子はぺこりと頭を下げた。


円堂はそれに気がついたようで笑って手を振り返してくれた。


バスが完全に去った後で男の子は一呼吸置いたのち


ボールを一気に蹴り飛ばし1mほど積もった雪道に一線の通路を作った。


女の子はか細い、でも心に染み渡る澄んだ声で一言呟いた。




「士朗君…」


「こっちの方が楽でしょ。それに雪にのこけた跡を残すのも嫌だし」


「…」




こけないもん。少し膨れたように裾を引っ張る。


士朗と呼ばれた吹雪はに意地悪い笑みを浮かべて手を取った。


手をつないで二人で歩きだす。


は空いた方の手が少しさみしいと思ったけど、


絶対に口には出さなかった。黙って、ぎゅってした。




「この雪が解けて春になったら、またの好きなスノードロップの花が咲くね」


「…」


「そしての大好きな春が来る…」




ほう。吐く息は白かった。


雪の下から顔を出すスノードロップ。春の訪れを知らせるもの。


花言葉は「初恋のため息」


ほう。二人の吐息が混ざり合って、やがてきえた。














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