(吹雪)微原作沿い・無口ヒロイン














 snowdrop 3














スノードロップ。


冬の終わりから春先にかけて花を咲かせる、春を呼ぶ花。


真っ白な花弁はまるで雪のようで以前はスノードロップを持ち帰ると


家が清められるという言い伝えがイギリスの方であったとのこと。


またエデンを追われたアダムとイヴを慰めたとある天使が


降り積もる雪をスノードロップに変えたという伝説も残っている。


花言葉は「希望」「慰め」「初恋のため息」…


小さいころ、まだママが優しかったころよく聴かせてくれた花にまつわるお話。


何度も何度も聞いては幸せな気持ちで眠りについたあの夜。


大好きだった、スノードロップの花が。


大好きだったの、嬉しそうに話すママの声が。




『アンタの声聞いてると虫唾が走る』




だから平気なの。平気平気。









 +









とん、とつま先でボールをつつくと暗黙の了解でゲームが始まる。


場所なんてどこでもいい。ゴールがなくてもいい。


ボール一つと相手がいればそれだけでよかった。


ボールは吹雪のもとに、だけどだって負けてない。


DFモードの吹雪を相手にカットの機会をうかがっている。


ふ、と息を吐いて一気に蹴りこむと


風の助けを借りてボールを自分のものにした。


「あ」とこぼす吹雪。ボールを片足で抑え微笑むにあははと笑って頭をかいた。




「上達したね。エルフィン・ブレスの入りも早くなってる…」


「…、まだまだ、だよ。士朗君強くって…」


「ふふ…ありがとう。に言われると調子乗っちゃいそうだよ」


「…」




ふふ、と口の端からこぼす微笑み。


吹雪は目を細めた。ああ。ほっぺたが熱くなる。


誤魔化すように「大分寄り道しちゃったね」と話題を変えて


学校の方向へと歩き出した。


すぐそばでやってたから数分でつける距離。


手をつないで、歩き始める。




滑りやすい階段を上って廊下から学校内へと。


二つの窓をちゃんと閉めるとほんの少し温かくなった気がした。


ざわざわと人の声が聞こえて二人は目を合わせた。


白恋中の生徒のものではないようだ。


…とすれば?




「吹雪君とちゃんだ!」




雪ん子のような藁帽子を被った荒谷が教室から顔を出す。


早く早くーと嬉しそうに手まねきをしている。


二人はもう一度眼を合わせた。




「どこに行ってたの?二人にお客さんが来てるんだよ?」


「お客さん?」




吹雪が疑問を胸に教室の中へとはいっていく。


そして、先程会ったばかりの面子を見て双方驚きの声を上げた。


は一斉に視線を浴びるのを感じてすぐさま吹雪の後ろに身を寄せた。




「あれ?君たち…」


「さっきの…吹雪士朗とってお前達だったのか?」


「…」




後ろで隠れているを横へと促しながら微笑む吹雪。


ピンクの髪の坊主頭…染岡が吹雪の方へと詰め寄り問いただした。




「お前が熊殺しか?」


「ああ…実物見てがっかりさせちゃったかな。噂を聞いてきた人たちは皆


 僕を大男だと思っちゃうみたいで…これが本当の吹雪士朗なんだ」




よろしく、と右手を差し出す。が、しかし右手は空に置かれたままで


染岡は無視して教室を出て行った。


キャプテンの円堂が名前を呼ぶも戻る気配はなかった。


吹雪は差し出した手をグーパーしながら


「あれ?なんか怒らせちゃったかな…」とぼんやり呟く。


円堂はそんな彼に本当は悪い奴じゃないんだけど、と申し訳なさそう頭を下げ、


吹雪は染岡が去った後の扉を少し見て気にしないでと笑った。




「吹雪君、さん。少し時間いいかしら」


「ええ…えっと」


「私は吉良瞳子。雷門中サッカー部の監督よ」


「雷門中サッカー部…」


「…」




聞き覚えのある学校名には唇を閉ざした。


雷門中サッカー部が私たちに何の用だろう…。


ぎゅ、と吹雪のつけているマフラーを握りしめた。









 +









やはり日本の中でも真北に存在しているだけあって当たり前だが北海道は寒い。


北海道民はこれくらいの気候だとそうとも思わないが、


東京からやってきたという雷門中サッカー部の面子は


全員が口をそろえて「寒い」と言った。…そうかな。


歩き方もどこかぎこちなく雪場もあまり慣れてないみたい。…あ。


きゃ、とマネージャーの音無が悲鳴を上げる。


凍った階段に足を滑らせたのを吹雪が後ろから支えた。


その時ちらりと鬼道の視線がこちらを向いたのを見て


はその時兄妹なのかな、と思った。




「気をつけて、階段は滑りやすいから」


「ありがとう、ございます…」




ゴゴ、と音がした。身を竦ませる吹雪の声がかすかに聞こえた。


誰よりも早くこの音を感知した吹雪。隣でが不安そうにする。


――雪崩だ。














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