(吹雪)微原作沿い・無口ヒロイン














 snowdrop 4














例えるなら、風のざわめきを感じた。


吹雪が敏感な反応を見せるそれがなんであるか、なら容易に想像できる。


――雪崩だ。


吹雪が最も恐怖を感じるものであり、いわゆるトラウマといったものだ。


大きく目を見開く彼は苦しそうで消えてしまいそうで。隣では自分の無力さを呪った。


何も、してあげられない。こんなに近くにいるのに遠い。距離が。


きっとどんな言葉をかけても彼には届かない。聞こえない。


フラッシュバック現象が全ての光景をかき消してるんだ。…なら。


は同じような事が起こったとき、いつも心掛けている事がある。


そばにいよう。


片時も離れずにいつもより強く手を握っていよう。


そして祈ろう。


早く彼の残酷な時間が過ぎ去りますように。


早く彼を脅かす悪が去りますように。


早くいつもみたいに笑ってくれますように。


あの時の体験は彼にしかできないけど、


今この場でリアルタイムで起こってる事なら、共感できる。


私が絶望のどん底にいた時彼らがしてくれたように。恩返しをしよう。


数少ない自分で決めた事の一つ。でももし。この役が不必要だと言われたならば。


私は…私の居場所はどこに…?




「大丈夫だよ、吹雪君。屋根の雪が落ちただけだから」


「屋根か…」




ちらり、と雪が落とされた裸の屋根を見て安心したようだった。


自分の腕を握りしめていた手を解くと「なんだ…屋根の雪か」と自分を安心させた。


その時初めて自分の片手を握ってじっとしている彼女の存在に気がついた。


何度目だろう。こうして隣にいてくれたのは。守って…くれていたのは。


完璧でなければいけないのに。約束したのに。それなのに守ってもらっているなんて…


は吹雪の無事を感じて薄く微笑んだ。つられて吹雪もぎこちなく微笑んだ。




「なんだ?どうかしたのか?」


「いやぁ、なんでもないよ!」


「これくらいの事でそんなに驚くなんて意外と小心者ね」


「あはは…」




マネージャーの一言に困ったような笑みを浮かべる吹雪。


ぎゅ。吹雪がありがとうの意味を込めて手のひらを握りしめた。


ぎゅ。握られてるのは手のひらなのになんだか胸まで…どうしたんだろう。









 +









「改めまして!私、マネージャーの木野秋、2年です」




ピンクのヘアピンをつけた女の子が交友的に話しかけてくる。


グラウンドに降りてきた一同はまず、真っ白な雪をかき集めて


雪合戦やら雪だるま作りといった雪遊びに精を出している。


そんな最中。同性同士、声がかけやすかったからなのかマネージャーが


に声をかけに来た。はドキリと体を硬直させたが


すぐにふわりと微笑んで頭を下げた。え、えっと…挨拶…でも。




「…、」




口を開こうとする度に訪れる軽い脅迫されているような圧迫感は


ずっと昔、もっと小さかった頃から消えないのトラウマだ。


原因が分かれば何事も解決するというのに、問題が解決する以前に


原因を生み出した人物が帰らぬ人となってしまったのでどうしようもない。


後はゆっくりと時間をかけて自分で解決しなくてはいけない問題。


吹雪の手を借りないで…一人で。




「あ…えっとごめんね?困らせるつもりはないの。


 あなたの事が知りたかったからまずは自分の事を…ってね」


「…」




少し話しただけでわかる。この子、根はすごくいい子だ。


私みたいなおどおどする子、普通はみんな相手にしないのに。…嬉しい。


胸の前にぎゅって手を握りしめてはごくりと生唾を飲んだ。


妖精さん、妖精さん。少しだけ私に勇気をください。




「わ、私……2年生…。話すの…苦手で……」




気を悪くしたのだろうか。木野は目を大きくしたまま黙り込んだ。


引っ込み思案なは悪い方に受け取りドクンドクンと心臓を鳴らした。


ふと気がつけばあんなに騒ぎ立てていた周りが今は静まり返っている。




蘇る声。ノイズ。ざわざわ、気持ち悪い声、ざわざわ、鬱陶しい子、ざわざわざわざわ…


ざわざわ――虫唾が走る。脳内で反響する声。




「声、…可愛い…」


「…?」




聞き間違いじゃないかと耳を疑った。


一瞬の静寂ののち、はぽかーんとした表情を浮かべた。


そんなこと言われたの…初めてで、疑ってしまう。…でも。


さっとあたりを見渡すと全員から送られていたのは敵意のあるものじゃない。


好意に満ちた視線だった。ドクンドクン。はいつも以上に


挙動不審にあわあわとしながら吹雪のもとまで駆け寄り


そして褐色の瞳を大きく広げて吹雪を覗き込んだ。見てた見てた?


吹雪はよしよしと子供をあやすように頭をなでて




「見てたよ、よく頑張ったね」




とほめてくれた。その言葉で一段と表情をほころばせる


そんなとは余所に吹雪の内心はまるで凍てつく氷の中のように冷えていた。


本人無頓着なのかネガティブなせいか、


自分がどれだけ可愛いかということを気付かないでいる。まったく。


ふわふわな雪みたいな白い髪。褐色な瞳。薄桃色の頬。可愛らしい女の子。


そんな彼女の凛とした愛らしい一声に雷門のメンバーの男どもが


表情を緩ませ、ぽつりと「可愛い」と呟いたのを吹雪は聞き逃さなかった。


視線を少し横にずらしほんの少し不機嫌にくちびるを閉ざす。面白くない。














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