(吹雪)微原作沿い・無口ヒロイン














 snowdrop 5














ただ一つ、言える事は。


アツヤがの事を好いていたという事。


ふと気がつくと彼の視線の先にはがいたから。


遊んでるとき、学校の授業中、サッカーの試合中…。


僕やほかの人に向けるよりもずっとずっと優しい視線。


あ。小さかった僕にもわかる。小さな小さな恋の匂い。


そして同時に訪れた胸のしめつけ。ぎゅうぎゅう。締め付けて。


両手のひらを胸の上に置いて荒れる鼓動を感じる。どくどく。




「よ、




アツヤはいつも僕よりも先にを見つけた。たとえどんなに人にあふれていても。


声をかけてアツヤはいつもに少し意地悪をする。


髪の毛をぐしゃぐしゃにしたり、からかったりなんて日常茶飯事。


ある時なんて三人で手を繋いでるときにグイグイ引っ張って歩いて


わざとこけさせたりなんて。可哀そうに。


たまにホントに泣かせちゃったりなんてするんだから。


弟ながらホント不器用だな、なんて。トクン…。


とアツヤが仲良くすれば仲良くするほど胸にうごめく感情。


名前も意味もわからなくて。僕は時折迷子になった子供みたいに途方に暮れた。




「いいか。絶対に士朗の奴には内緒だからな。いいか?言ったらゼッコーだぞ?」




こっそり盗み聞いたアツヤの言葉。ただそれだけが気がかりで。


そして今でもに聞けないままでいる。









 +









「私たちはエイリア学園を倒すために仲間を集めているの」




ぷくりと七輪で焼いたおもちが膨れ上がる。ほんのり焦げ色がついて


海苔を巻いて食べたらきっとおいしいに違いない。はうう。


は監督の話を片耳にぼおっとおもちを眺めている。


決して聞いてないわけではないらしい。


その隣で吹雪が「仲間」という監督の口から出た単語に反応して見せる。


吉良監督がマネージャーの一人、音無に呼び掛けノートPCを二人に見せた。


画面にはいくつかのフォルダが開かれておりそのすべてに


「半壊もしくは全壊した校舎」の画像が掲載されていた。近隣の中学校まである。




「こういうことが起こってるの、知ってるだろ?」


「数日前からエイリア学園はこの北海道での襲撃を開始しているわ」


「…」


「でも、うちは大丈夫さ。狙われるわけがないよ」




吹雪は七輪に新たなおもちをのせながら続ける。


とても穏やかな口調で「やっとサッカー部として活動ができている弱小チームなんだから」と。


は白恋中サッカー部キャプテンの横顔をちらりと見て、


少し俯いた。エイリア学園の事も、襲撃の事も、不安に思わなかったと言えば嘘になる。


白恋中が崩壊する様なんて、見たくない。


は静かに唇をきゅ、っと一の字に結んだ。




「白恋中だけの問題ではないわ。これ以上、エイリア学園の勝手にさせるわけにはいかない」


「俺たちは奴等を倒すため地上最強のサッカーチームを作ろうとしているんだ!


 だから吹雪、…二人に会いに来たんだぜ!」




地上最強のサッカーチーム。


吹雪がオウム返しのように繰り返して少し考え込む。


この時点では、どういう結果であれキャプテンの意思に従おうと決めた。


決断は任せよう。私は彼の背中を守るってあの人と約束したのだから。




「貴方達の噂を聞いたわ。噂の実力の持ち主なら私たちと一緒に来てほしい。


 ――貴方達のプレー、みせてくれる?」




すっと、ボールのようにまん丸に膨れ上がったおもちをキャプテンの円堂に手渡す吹雪。


「いただきます」と受け取った彼に吹雪は薄く微笑み、


それから吉良監督の方に向き直って1つの返事で了承した。いいですよ、と。




も…勝手にきめちゃったけどよかったよね?」


「…(こく)」




勿論だよ。了承の意味を込めてふんわりと微笑み静かにうなずいた。


かまくらの外で先程のピンクの髪の少年、染岡が


気に食わなそうな顔でこちらを覗いていたことをは見逃さなかった。









 +









「相手は日本一のチームだ。どこまでできるかわからないけど頑張ろう!」




キャプテンの声。部員一同声を合わせて「おー」とこぶしを空へと突き出した。


俯きがちに胸元に手を重ね自分を落ち着かせるためにゆっくりと吐息を吐き出すと


真っ白な息になって虚空へ放り出される。大丈夫。今日はだいぶ落ち着いてる。




「いつもの奴、任せるよ」


「…(こく)」




すれ違う一瞬に伝えられた一言には体を震わせる。武者震いだ。


“任せる”


その一言がどれだけのパワーを持っているのか。


は自分の内側から湧き上がる闘志のようなものを感じながら


それを開放させるように地面をけった。




「ボールは全部俺に回せ。…わかったな?」




――時期にホイッスルが鳴る。














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