(吹雪)微原作沿い・無口ヒロイン














 snowdrop 6














結ばれたのは小さな小指。赤い髪の男の子と白い髪の女の子。


小指同士を絡ませるとなんともいえない緊張が子供の体をくすぐった。


二人とも言いようのない興奮とほんの少しの恥ずかしさを胸に、


頬を桃色に染め上げていた。先に言葉を切り出したのはアツヤのほう。




『今のことは俺との秘密だ!絶対に兄ちゃんに言うんじゃないぞ!』




いいか。絶対に士朗の奴には内緒だからな。いいか?言ったらゼッコーだぞ?


アツヤの言葉には痛めてしまうのでは?と思うほど首を立てに振った。


幼き日の約束。


時はだいぶ…流れてしまったけど。


あのときの約束はまだ有効だよね。




「――」




はアツヤへと手を伸ばした。小指を絡めて、指きりをしよう。


触れることはできなかったけど――。









 +









トントン、と軽く飛び跳ねる。今から暴れるよって体に送るサイン。


少しずつ地面との距離が広がって頭の奥に軽い浮遊感を覚えるようになる。


全身に風を感じる。素直になれる。風を感じている間は開放される気がした。


ならば。もっともっと高いところへ。




「…」




白いジャージがバタバタと揺れ、髪が宙を泳いだ。


ぐっと膝を曲げて息を止める。バネを使うように全身を使って飛び上がると


なんとなく空が迫ってくるような錯覚に陥った。右手を空に伸ばす。届かないと知ってるのに。




ちゃん、今日すっごく調子いいみたい」


「だっぺ。いつも以上に高く跳んでるっぺよ」


「僕たちも負けてられないね」




ほう、とため息と一緒に出たのは白い息。うん、だいぶ体は温まった。


全身の緊張を程よく抜いて最低限の脱力させると感覚が研ぎ澄まされて


より多くの気配を感じることができた。うん、今日は絶好調だ。…怖いくらい。


は自分のポジション…MFの位置に立ち、息を整えた。ホイッスルが鳴る。


ざわり、と雷門の空気が乱れるのをは肌で感じ取る。




「何!?あの野郎ディフェンスにいる!」


「吹雪はFWじゃなかったのか!?」


「FWだよ吹雪君は」


「じゃああれは何だ!?」


「今はまだDFなんだ」




染岡の罵声が飛ぶ。あれがたしか雷門のFWだ。吹雪と張り合ってるあたりからすると


なにか「エースストラーカー」という単語に敏感になっている様子。


という事は。


はDFポジションにいる吹雪へと背中へと手を回して合図を送る。


「さぁ!白恋中のサッカーを見せてやろう!」という言葉が伝わった合図。


鬼道のキックオフから試合がスタートする。


染岡にまわすと問答無用で中央を突破してきた。吹雪はにこりと微笑む。




「そういう強引なプレイ…嫌いじゃないよ」


― アイスグラウンド ―




軽やかに宙を舞い相手を凍り付ける技。ボールがすっと舞い上がり


吹雪の胸の上に収まった。はまだあまり動き出していない様子。




「なんてDF能力だ…あれを破るのはかなり大変だぞ…」




喜多海へとボールパス。それを足の早い風丸があっさりとカット。


内心「他のプレイヤーは吹雪ほどではないようだ」と思慮する。


続いて風丸が見たのはまだ何の動きもそぶりも見せないのほう。


一見ボールの取り合いにひどく弱そうな女の子。だが、何かが引っかかるのを感じている。


染岡へとパスをまわし、狙った先はゴール。が動きかけて吹雪が笑顔で制する。


染岡のシュートはには少しだけ荷が重いと判断したのだろう。


ゴール前までの移動中そんな些細な間にもアイコンタクトを忘れない。


“もうデータはあつまったの?”


“こく”


“わかった”




「おっとここでGKの前に吹雪がたった!?」


「防げるもんなら防いで見やがれ!!」


― ドラゴンクラッシュ ―




竜をまとうシュート。確かに。の脚力では軌道を変えるのが精一杯だったかもしれない。


吹雪はボールから一瞬たりとも目をそらさずにじっと眺めて体をくるりと一回転させた。


その遠心力でボールは軽々ととめられる。染岡、そして吉良監督は違った反応を示した。


すごいFWではなくてすごいDFだったのか?なんて声が雷門からあがる中、


吹雪が持っていたボールはへと引き継がれた。目指すのは雷門中のゴール。




「くっ」


「…」




染岡が相手にスライディングを試みる。体格の差。性別の差。歴然の差。


周りにいた雷門中メンバー全員が10秒後の結末を予想しただろう。しかし。


白恋中のメンバーはまったく心配したそぶりを見せてはいなかった。


トップスピンをかけたボールを膝に当てて頭上へと持ち上げる。流れるように。


ただ、舞うように飛び上がりさらりとスライディングを交わす




「…なんて軽い身のこなしなんだ。それにあのボールコントロールは…」




小柄な体系を活かしたフットワーク。広い視野。冷静さ。瞬時の判断の的確性。


そして血反吐を吐くような特訓から得たコントロール。すべてはの持ち味。


フィールドを見渡しさっと穴を見つけては滑り込んでいく。


――風になろう。


頬をすべる風。髪を乱す。少し、息が荒れてくる。でもまだまだ。




「お手並み拝見といこうかな!!」




MFの一之瀬がの正面からブロックにきた。は少し驚くもスピードを緩めない。


静かに細くて長い息を吐いただけだった。先に攻撃を仕掛けたのは一之瀬のほう。




― フレイムダンス ―


「…」




後ろにいる烈斗へ少し細工をしてパスする。一之瀬とのタイミングを


少しずらして回避すると再びパスでの元に。少し軌道がそれて


遠回りに回収することになったが何の問題もなさそうだ。




― エルフィンブレス ―




鬼道と風丸という壁が立ちはだかる。身近にパスを出せる仲間はいない。


おそらくこの鬼道という人物がひそかに指示を出していたのだろう。


は意を決してボールを両足ではさみ強烈なスピンをかけた。


とん、と地面に一度弾かれその力を大きくなり突風を巻き起こす。


舞うようなステップだった。その間にもかかとでコントロールする。


まるで幻覚。ふんわりとした春の心地みたいに気が緩んでしまうような風。


するりと二人の間をすり抜けてはあの人へとパスを送った。


マフラーが風に踊った。


逆立った白い髪。


振り向いた瞳は――オレンジ。




「よくやった。後は任せな…!」




唇が震えた。


面影はやっぱり双子。雰囲気はやっぱり双子。


でも。




君はアツヤ君じゃない。だからアツヤ君にはなれない。














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