(吹雪)微原作沿い・無口ヒロイン
snowdrop 7
物心付いた頃から霊的なものを感じることができるようになっていた。
視ることも話すこともできるけどそれにはひどく集中力を使うため、滅多にしない。
風の精、林の精、火の精、山の精。一般には見えないかもしれないけどちゃんといて。
ちなみに私が一番相性の良さを感じているのは風の精。
時に優しく巻き上げ、時に鋭く断ち切る。マルチな精霊だ。気性も穏やかだしね。
――私は二度彼と約束を果たした。
一度目はまだ子供だった彼と。
そして二度目は死んだ後の彼と。
その約束は今でも継続されている。
+
「吹き荒れろ」
さらに身体を回転させて威力をつける。
肌を刺すあらぶる風。
凍てつく空気。
一点に集結する。
― エターナルブリザード ―
びりびりと空気を伝わる威力。円堂がゴッドハンドを構えるもあっけなくその壁は突破される。
これぞ雪原のプリンスと称される吹雪士郎の実力。否、まだまだこんなものでは。
「すごい…止めたと思ったのになんて破壊力」
「いいかよく聞け。俺がエースストライカー吹雪士郎だ」
「吹雪!お前のシュートどうしても止めたくなった!」
「できるもんならやってみな」
にっと笑う吹雪。円堂は彼の後姿を見て手のひらに拳を押し当てて同じように笑った。
互いにいい刺激になってるみたい。あんなに楽しそうな吹雪は久しぶりだ、と。
はふふ、と微笑んだ。「次も頼むぜ」と肩を叩けば気合が入る。
「シュートはすごくても…豪炎寺の変わりはいないんだ。やられっぱなしでたまるか――」
「――そこまで!試合終了よ!」
「何!」
口元に笑みを浮かべているところを見ると、予想を上回る結果だったようだ。
抜群のキック力とDF能力の両方を兼ね備えたエースストライカー。
そして、力は劣るものの、他者との連携をミリ単位で外すことなくこなすプレーヤー。
は吉良監督をじっと見つめて何度か瞬きをした。相手もこちらに気づいたようで
は居心地が悪そうに首をかしげて苦笑して見せた。
「このまま終わらせてたまるか!!」
「染岡くん!」
言葉とともに蹴りだされたボールはと吹雪がいる場所へと一直線だった。
吹雪は振り返りざまに咄嗟にの方を自分の後ろへと突き飛ばし、
ボールを真上へと蹴り上げる。雲ひとつない青い空に白と黒のボールが浮かぶ。
「負けるわけにはいかないんだ!」
はいてて、とぶつけたお尻の砂を払いながら烈斗の手を借りて立ち上がる。
心配、というよりは少し呆れるような雰囲気で二人の蹴り合いを見ていた。
対角線上からひとつのボールを蹴りあう二人。一瞬はボールがその場で止まるも、
次の瞬間には染岡のほうがはじかれ、吹雪の足元にボールは残った。
「その程度か…話にならねぇ」
「くっ…」
「こんなもんじゃ満足できねぇ!もっと楽しませろ!」
塔子はさっきとの別人ぶりに意を決したようにゴール前へ。
ブロック予想が付き、ははっとなって地面を蹴った。
吹雪はすでにその気だったようでが絶好のタイミングで視界に移ったのを見て
次の動きへとすぐに入った。「しょうがないんだから…」内心そう思いつつ、
はただ彼の動きに合わせる。同じ風属性を持つ二人。相性はばっちりだ。
両足で回転を加え真上へと空高く蹴り上げる吹雪。
するとなんの迷いもなく膝のばねを使い空へ。一閃に舞い上がるボールの中心を
がめいいっぱいの力を溜め込み送り出す。ボールが足から離れるのを見計らって
吹雪が彼女とは逆足で蹴り込み波動で威力を駆り立てる。
回転を絶妙に加えたこのボールは空気中の水分を氷結させ、軌跡を描いた。
― ホーリーダスト ―
二人が地に着く。が、ふぅっと白い息を吐き出した。
ゴール前に立ちはだかる二人のDF陣、塔子と壁山。二人はブロック技を駆使して
食い止めることを試みるも、ゴール枠をぎりぎりそらすのが精一杯で終わった。
「もう少し…」言葉には出さなかったが、が少しだけ反省するそぶりを見せた。
「はいそこまで!」
吉良監督が手拍子とともに試合終了を告げる。それをきっかけに
吹雪は静かに吐息を吐き出し、いつものふんわりした雰囲気に戻っていた。
さっきは突き飛ばしたりしてごめんね、怪我しなかった?と謙虚に聞いてくるところが彼らしい。
は手を胸の前でひらつかせながら「大丈夫」と微笑む。
「すげぇな吹雪!あんなビリッビリするシュート…俺感動した!」
「僕もだよ。僕の…僕たちのシュートに触れることができたのは君が初めてさ」
「吹雪!!俺お前たちと一緒にサッカーやりたい!」
「僕もさ!君となら…君たちとなら思いっきりサッカーがやれそうな気がするよ」
「吹雪君…さん。正式にイナズマキャラバンへの参加を要請するわ」
一緒に戦ってくれるわね。
その言葉に目を見合わせる二人。そしての分も吹雪が二つの返事でそれを返した。
「雷門の新しいストラーカー誕生よ!」
「みんな、よろしくね!」
「…(ぺこ)」
ざっ。
砂利を踏みしめる音。染岡がグラウンドのほうへ走り出していたのが見えた。
唇を薄く開けて目でそれを追いかける。
ついつい人の表情を追ってしまうのはの癖だ。
「さん…ちょっとあなたと話がしたいわ。いいかしら?」
話がしたい。そう聞いて吹雪が一瞬自分が仲介に入ろうかとも考えたが、
が一歩踏み出たのを見てやめた。話すことは苦手だけども同姓だと大丈夫かもしれない。
「いっておいで」
「…(こく)!」
吹雪はほんの少し不安な気持ちもありつつ、を笑顔で送り出した。
は彼らが視界から見えなくなったところで、吉良監督が話す内容が
きっとあのことだろうと、見当が付いているようだった。