(吹雪)微原作沿い・無口ヒロイン














 snowdrop 9














監督の言葉を思い出しながらてくてくと歩く。雪が積もる道。足跡を残して。


ざくざく。ざくざく。雪を踏みしめて。真っ白なため息をついてふと空を見上げてみた。




「…」




どうしよう、かな。


はぼんやりと脳裏の端っこで考えた。どうしよう。その一言が


14歳のの体をぐるぐる回る。それくらい重大で、想像も付かない大きな話。


答えなんて本当は簡単なことかもしれない。けど、今のには見当も付かなかった。


考えれば考えるほど他人事のように、フィードアウトしていく。




「(監督は…相談するべきっていってたけど…)」




できない。否、したくない。怖い、から。


ざくざく。ざくざく。


捨てられる恐怖が体に染み付いてしまってて――。









 +









教室のドアを開けるとストーブの暖かい熱気とともに


美味しそうな食べ物のにおいがした。きっと雷門の皆に


北海道の郷土料理でも振舞っているのだろう。ふふ。思わず笑みがこぼれる。




「おかえり、




寒かったでしょう、とほかほかと湯気がのぼる湯のみを手渡してくれる。


ストーブの上にある薬缶で沸かしたものだろう。手のひらを通して染み渡る


二種類のあったかさにの頬にも赤みが戻っていく。


そして仲間たちからの「おかえり」という言葉に躊躇いながらも微笑を返した。


隣にいる吹雪がちらりとの表情を盗み見て脳裏に疑問符を浮かべる。


流石によく見てる。長く隣にいるから些細な変化にとても敏感なんだ。




「監督何だって?」


「…え…っと」




話したほうが。でも。話さないほうが。


深みのある瞳に見つめられて、固めていた決意が揺らいだ。嗚呼。


は少し俯いて首を横に振った。嘘だ。こんなのすぐにバレるよ。でも。でもでも。


嗚呼。私の意気地なし。




「何かあっ――」


「た、大変です!!」




吹雪の言葉。そして教室にいた全員を遮ったのは音無だった。


赤渕めがねをかけてノートPCを触っていた音無はそこに入ってきた情報を


皆に見せるように促した。左上の画面を拡大すると、そこにはエイリア学園。


ジェミニストームのメンバーが元は後者であったであろう瓦礫の上いるところ。


LIVEという文字が中継だということを告げる。中央にいるレーゼが


宣戦布告を申し出る。はぎゅっと唇をかみ締めた。


不安げに中継を見つめるを察したのか吹雪は彼女の手を握り締める。




「白恋中のものたちよ。お前らはわれ等エイリア学園に選ばれた――サッカーに応じよ。」


「レーゼ…」


「…」


「断ることはできない。断れば、破壊が待っている。…助かる道は勝利のみ!」




白恋中にも。そんな吹雪の呟きがの耳にも届いた。


エイリア学園がやってくる。決断のときが…迫ってきてるんだ。


握っている手に力が入っていたことを、吹雪は知らないふりをしていた









 +









雷門中のユニフォームに着替えた二人。は少しだけ半袖に躊躇いがちだった。


左手首に残る生々しい傷跡はもう何年も前のものだがかすかに残っている。




「大丈夫」




吹雪が言った。そういってそっと左手首を包み込んだ。そうだ。


左手首には彼からもらったミサンガがつけられている。だから…平気なんだ。


しっかりと頷き返した。二人は既に雷門の皆が待つグラウンドへと歩みを進めた。


グラウンドからは円堂の皆をまとめる声が響いていた。




「今度こそエイリア学園に必ず勝つ!そのためにも今まで以上に特訓して…あ!」




よお!と円堂が声をかける。視線が二人に集まる。特に白恋の皆は


雷門ジャージに身を包んだ二人に喚起の声を上げた。


似合ってる、カッコイイ。という言葉にははにかむように髪をいじった。


吹雪もふふっと微笑み、




「ありがとう皆。僕もこれでライモンイレブンの一人だ。


 この白恋中を絶対守って見せるからね」


「その意気だ!」


「…で、どんな練習するの?」


「白と赤でチームを二つに分けるんだ。それぞれ攻守を交代して


 コンビネーションの練習をするんだよ」


「面白そうだね…いいよ!」




面白そうだ。もきらきらと瞳を輝かせる。両手いっぱい伸ばしてプレーができる。


ただそれだけで悩み事が吹っ飛ぶようで。忘れよう今だけは。


サッカーをしている間だけでも、頭の片隅に。




「吹雪君貴方にはFWをお願いするわ」


「僕が…FW」


「えぇ、不服かしら」


「いや、問題ありません」


「そう。ではバランスをとるために深澤さんには別のチームのMFに入ってもらうわ」


「…(こく)」


「…返事は?」


「…は、はいっ…」




言った後ではっとなった。そうだ。今までの瞳子お姉ちゃんじゃだめなんだ。


キャラバンのドアを開けて、降りた瞬間から私たちは監督と選手。


馴れ合い入らない。それに、エイリアとの接点との事もあるし、


私たちはそれ以上でも以下でもない関係でい続けないと。ぱちん。


ほっぺたを叩いて、気合を入れる。うう。ちょっと痛かった。


――ピー。


吉良監督のホイッスルとともに駆け上がる。対戦相手の中に


吹雪がいるのをすこし不思議に思いながら。は入れられたボールの


確保へと足を滑らせた。先回りしていた鬼道と対峙しボールの競り合いが始まる。




「フッ…今度は簡単には抜けないぞ」


「…」




スパイクで引いて、蹴りかけてやめて。


体重を器用に移動させながら互いが互いの動きを見合う。


すごくうまい…。肌で感じる上手さ。は勝負どころを見極めて地面を蹴った。


鬼道もそれに対応するべく間合いを取る。一瞬のステップ。まるで風を舞うように軽い。




― エルフィンブレス ―




はボールを蹴りこむのではなく追い越し、かかとでふんではバックスピンをかけた。


背中に蹴り上げたボールを逆の足で蹴り上げると、風丸のほうにパスを回す。


鬼道からは死角なため、風丸に渡ったのだと気づかせるまでに少し時間を要した。




「…流石だな。不意を付くとは…」


「…でも、二度目は抜けない」


「当然だ」




ふっと笑う鬼道。そしてつま先をとんとんと地面に当てては、


今の動きを思い出し無駄な動きの反省を行っている。まだまだだ。


ドリブルであがる風丸を見てぽつり、と「次はもう少し…」とつぶやいた。


前回の試合を通して見ていたつもりではあったが実際にやってみるとでは差がある。


エイリア学園と戦うまでにその溝を埋めれるだけ埋めよう。ふっと息を吐いた。




もっともっと。研ぎ澄まされろ。そして、感じるんだ。――風を。














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