腕枕の温もり
「…こっち来いよ」
チェスターはそういって、布団の端を持ち上げる。
口調はしぶしぶといった感じだ。
頬がほんのりと赤い。
は引き寄せられるように彼のベットへともぐりこんだ。
+
朝。
ぴちぴちという小鳥が囀りあう音楽を目覚ましに
の意識は覚醒へと向かう。
うっすらと開いた視界に入ったのはシーツに波打つブラウンの髪。
そして、見慣れたグレイの髪が溶け合うようにぼんやりと映る。
「?」
視線を上へと辿っていくといくらか細められた切れ長の青い瞳と、ぱちりと目が合った。
一気に目覚める。
…フリーズ。
「おはよ」
「お、おはよう…」
「よく、眠れたか?」
「…ぅ、うん」
ならいいんだ、と朗らかに微笑む。
の心臓が思わずどきりと高鳴った。
いつも以上に近くで見る彼の表情は思った以上に幼い。
柔らかく微笑む表情。
優しく細められた瞳。
今は結ばれていない長い髪…
体温が上がっていくのを感じて、はチェスターの腕の中へと顔を埋める。
とくん…
とくん…
とくん…
彼の心臓の音が耳の奥に響いて、とても安心できた。
「ん?なんだ…まだ怖いのか?」
「…?」
「だからいったろ?寝る前にあんな本読むと怖くて眠れなくなるって…」
「…ぅ゛」
そもそもの原因はこれなのだ。
は何もいう事ができず言葉を詰まらせる。
顔を見て無くても彼女の表情が手に取るようにわかるチェスターは、
フ…と笑みをこぼしての髪を優しく撫でた。
「なぁ?」
「…な、何!?」
「キスしていい?」
「…だめ…!」
「ふうん。ずぅーと人の片腕占領していたさんはそんな事いうのかぁ〜」
「ぇ…?ぁわ、ゎゎわわわ…」
気付いてなかったのだろうか。
彼女の反応を大いに楽しむ反面ちょっと複雑な心境に入るチェスター。
なんとなく目にとまった、少し癖のある彼女の髪をいくつか掬い上げ
目の前で口付けて見せるともう、といわんばかりには唇を尖らせた。
「悪い、もうしないって」
「むぅ…」
「わかったから膨れんなって…な?」
チェスターの指先がの頬へと触れる。
ふにふに、と痛みを感じない程度に摘むと不思議なくらいに機嫌がよくなった。
彼女から、えへへ…という笑みがこぼれる。
…単純な奴。
チェスターは内心そう思ったが決して口には出さなかった。
「…さて、朝…ってかもう昼だけど飯食おうぜ」
「うん!…がんばって作る、よ…」
「俺も手伝うよ」
ぱたぱた…という効果音で台所へと向かうと
自身の髪をひと纏めてから後を追うチェスター。
のいつも以上に上機嫌な理由が自分だということを、心の底から嬉しく思った。
(あの笑顔は俺の特別)(彼の微笑みは私の力になる)
[腕枕の温もり] 完