エプロンの後姿
















とんとんとん…


規則的なリズムで音が聞こえてくる。


誰かが包丁でまな板を叩いている音だとすぐにわかった。


チェスターは閉ざされていた重いまぶたを持ち上げて、


音源元へと視線をやった。




それは見間違える事のない最愛の





寧ろこんな時間のこんな場所に彼女以外の誰かがいるわけなんてないのだが、


彼女を一番に見つけたチェスターは顔をほころばせる。


上半身を起こすと今まで自身に被せられていた毛布の存在に気付いた。




「(掛けてくれたのか…)」




ったく…と心の中でつぶやいてそっと息を吐く。


毛布を自分が今まで眠っていたソファーの端の方に寄せると、


料理に励んでいるにゆっくりと歩み寄り、後ろから抱き寄せた。


…気付いていたのだろう、反応はいまいちだ。




「…チェスターのお兄ちゃん、おはよ、…」




夜ご飯はもうちょっとまってね、


といつものようにどこかふんわりとした口調で付け加える。


チェスターは自身の腕を払う事をしないに相槌を打って、


彼女の作業を見つめていた。




「今晩は何?」


「…ぁ、シチューだよ」


「…うまそう」


「…ぇ?…えへへ」




はにかむ


チェスターは後ろから抱きしめているせいで


彼女の表情が見えない事を残念に思いながら、の首に顔を埋める。


くすぐったいよ、と彼女がこぼした。




「今日は、甘えたさん…だね」


「そうか?」


「うん…」




まだ眠い?と尋ねてくるにチェスターは「ん…」と曖昧な言葉で返す。




「…


「…ぇ?」




愛してる、俺はそっと呟いた。














(今君が隣にいてくれて、ありがとう)(あなたの隣は私だけの場所)
[エプロンの後姿] 完
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