花瓶に咲かせた白い花
鏡に映る自分の姿を見つめると、自然と表情がほころんでいくのが手に取るようにわかった。
まるで壊れやすいものに触れるかのようにそっと、自身の髪を愛でる。
今ではもう見慣れてしまったココアのような色をした茶髪。
髪型もいつもの三つ網ではなく、いわいるサイドアップというやつで…。
髪留めにはゴムではなく深緑色のリボンを使ってみた。
今日は特別な日。
「(気付いてくれるかな…)」
ほんの少しの期待を胸に、は家を後にした。
+
だいぶ慣れた道のりを歩く。
その道に、トーティスの名残はない。
あのトーティスの崩壊から二年がたった今、この街はミゲールと名を変えて発展を見せていた。
そう…、それはクレスのお父さんの名前…。
無性に嬉しくなって意味もないのにふふ…と笑みを零した。
彼はなんと言ってくれるだろうか…
角を曲がったとき彼の後姿を見つけて、は表情をほころばせる。
先に気付いたのは一緒に話をしていたクレス。
クレスは彼女の存在をチェスターに知らせ、何か一言いってからにこにこと帰路についていた。
交わしたのはおそらく別れの言葉か何かだろう。
チェスターは振り返り、その切れ長の瞳に彼女の姿を映すと駆け寄り抱きしめる。
腕の中からは楽しげに声をあげる彼女。
「…お迎え、来ちゃった」
「へへ…サンキュ。ごめんな、話してたら遅くなっちまった」
彼女のふわふわとした髪を撫でながら「今日は大切な日なのにな」と自嘲気味に言った。
は朗らかに微笑む。
まるで、心配しないでといっているように。
チェスターは彼女の掌を握り締め、歩く。
「そのリボン…。まだ持ってたんだな」
「うん、大事なものだもん」
彼女愛用の深緑色のリボン。
それは彼女の誕生日に彼が送ったものだった。
以来彼女は何か特別な事があるたびに、それを着用するようにしている。
はフフ…とはにかむ。
「そっか…」
呟くようにいって、チェスターは握っている彼女の指に自身の指を絡める。
いわいる恋人つなぎで二人は帰路についた。
二人の薬指の指輪がきらりと光った。
+
トーティスに戻って、二年がたった。
花瓶には二輪の白い花が咲いていた。
[花瓶に咲かせた白い花] 完