おかえり と 君が笑う
















一年間…。


それはトーティスを離れアーチェのことを探していた時間だ。


同時にそれは、トーティスを離れていた時間でもある。




を…




一人ぼっちにしていた時間でもあるのだ。


今はミゲールと名を変えて更なる発展を遂げつつあるこの町に、


トーティスの名残はない。


チェスターは、すこし躊躇うような気持ちで彼女の待つ自宅へと足を運ばせた。


…否、もう待ってはいないかもしれない。


もう既にこの町を出て…


新たな人生をスタートしているのかも。


家の前まで来て、ドアノブに手をかけて、捻ろうかどうか躊躇した。




いて欲しい、


けれどいなかったら…




どうするつもりだ?




自分自身への問。


それは「待っててくれ」と行き先も言わずに家を飛び出した俺への罰。


静かに息を吐き出すと、ドアノブから手を離した。




…次の瞬間、カチャリと音を立ててゆっくりと扉が開く。




スローモーションのようにゆっくりと開いた扉から顔を覗かせる人物。


それは――――




「ぁ…え?…チェス、ター…なの?」




だった。


一年前よりも少し顔立ちが大人びてはいるが、見間違える事のない彼女。


は目を見開き、細めた瞳が潤んで涙を零した。


口元を手の平で隠しながら謝る彼女は昔と同じ仕草。




「待ってて…くれたのか?」




身長差のせいで見上げる彼女は小さく小首をかしげた。


そして簡単に言ってのけたのだ。




「だって………“まっててくれ”って、いった…でしょ?」




だから待ってたの。


そう付け加えて、は涙をぬぐいながらはにかんだ。


久しぶりに見た彼女の笑顔は酷く綺麗で、チェスターは色々な思いを胸に、


を抱きしめた。


ゆっくりと背に回される彼女の華奢な腕。


チェスターは何度も何度も「ありがとう」と言葉を紡いだ。










「おかえり…チェスター」














(待っていてくれてありがとう)(チェスターなら絶対帰ってくるってわかってたもの)
[おかえり と 君が笑う] 完
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