バチバチと・・・


火花を散らしながらの戦闘にやや悪戦苦闘・・・


はやつを見ながら硬直し、


先ほどから微塵も動かない。


そんな様子を隣で見ていたゴーリは呆れ気味にため息を吐き出した。















 好き嫌いの日















「ゴーリの親父ー!配達終わったぜ」




少し前、ゴーリに言付けされていた仕事を、


小一時間村中を走り続けることでようやく終えることのできたチェスターが


再びゴーリの店へと足を踏み入れた。


いつもなら、戸惑いがちに微笑んでくれる“彼女”がいないことに気づき


チェスターは内心かすかに疑問を抱く。




「(二階・・・か?)」




即座にゴーリに配達の報告という口実を思いついたチェスターは


店の二階――ゴーリと“彼女”の住まいだ――へとその重たい足を向かわせた。




足取りは、軽い。










+










時を同じくして、こちらはゴーリ家の二階。


火花を散らしながらの戦闘にやや苦戦中の


長引きそうだな・・・と、と格闘している“やつ”の姿をいっぺんに視界に入れて、


困った風に肩をすくめた。


・・・“やつ”といえばとっくに熱が冷めてしまっている。




「親父、配達終わったぜ」




配達を終えたばかりのチェスターは、


その場に足を踏み入れただけで妙な違和感を感じた。


違和感…それは、がいつにもなくキラキラとした表情を自身に見せているということ…


なんとなく状況のつかめたチェスターは


自分が、にとって何かの救世主なのだと肌で感じた。


の隣にいるゴーリは呆れてものが言えない、といった風にため息をつく。




「ご苦労…。今日はもう上がっていいぞ…


 と、言いたいところなんだがを見張っててくれんか…?」


「かまわねーけど…。…見張るって?」


「あれじゃ…」




親指でくいっとの影になっていた“奴”を示すゴーリ。


完全に事情を飲み込んだチェスターは「あー」と唸る。




「………わかった」


「すまんな…




 食うなよ」




今の会話を小耳に挟み、気まずくなった空気の中は諦めた様にフォークをテーブルに置いた。


“奴”…それは、一口大に切り分けられた肉。


ゴーリが部屋から出て行くのとほぼ同時に、チェスターがそばにあったいすに腰掛ける。




「…………………………さぁ、食え」


「…ぅ………。鬼」


「何とでも」


「…今度アミィに、言いつけてやるぅ…」


「…、その手には乗りませんよぉ」


「…っく、………うぅ」




ほら、と促されるままにフォークは再びの手の中へ…


むっ、とあからさまに不機嫌に顔をゆがませてみたが、


チェスターはククッ笑うだけで、全く相手にされていないといった感じだ。


の視線がゆっくりと奴へと向いて、再びばちっ!と火花が散った。




「…お前なぁ…。普通嫌いなもんって最初に食わねーか?」


「その言葉…アミィに、聞かせたい…」


「(こいつ…)ご自由に…。どっちにしろ食べない限りは外に出れないだろうし…なぁ?


「…鬼畜」


「何とでも」




ぐっ、と息を詰まらせるを見てチェスターは呆れ気味に眉根を寄せた。


ふぅ…と静かに息をこぼすと、今度はチェスターの方が諦めたように頭を垂れる。


机に伏せるようにしてチェスターはぼそりと呟いた。




「一個でいいから食べろ…。後は食ってやるから…」


「…ふぇ!?」


「親父には内緒な」


「ぅ…うん!」




単純なヤツ…


ひじ杖の状態のまま微笑ましく彼女を見つめるチェスター。


ちらちらと自身を意識しながら食べる彼女の姿は、


かわいらしく、小動物のようだった。




「(甘いな…俺)」




くくっと自嘲気味に笑う。


隣で、ようやく一個の肉を飲み込み終えたに気付き、


残りの3つほどの肉を口の中に放り込んだ。


チェスターはの頭の上に自身の手のひらを置いて、


がんばったな、とささやくようにいった。




「ご、ご馳走…さまでした…」


「ん。


 …これから、仕事…?」


「ううん。今日はしなくて、いいって…」


「そっか。じゃあ、散歩にでも行こうぜ…一緒に」


「い、いく…!」




ぎゅっ、と胸の前で拳を作っては言った。


急いで食器を流しへと放り込むと、


ドアの枠で背を預けて待っている彼の元へと歩み寄る。


ほら、微笑みながら右手を差し伸べるチェスター。


はそれを朗らかに微笑みながらしっかりと握り締めた。




暖かい日の光が、二人の繋がった影を作った。














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