稽古の日















「はぁ?が剣術???」




トーティスの午後。


ちょうど午前の稽古が終わり、親友と昼食をとるクレス。


親友…チェスターはとっくに食べ終え、先ほどから矢先を研ぎながら


クレスの話を聞いている。


最初の発言はチェスターのものだ。




「全然想像できねぇな…」


「うん…はじめは僕も驚いたけど…」


「けど?」


「強いよ…かなり」




クレスは、ははっと乾いた笑みを浮かべる。


その笑みに相槌を打ちそうになったチェスターは慌てて首を振った。




「待て待て待て…。二つ年下の…女の子だぜ?まさかクレス、本気なんか…」


「…………………………」


「悪い、もう聞かないから顔上げてくれ」




右手はサンドイッチを握ったままの状態で、


段々と視線が低く…俯いていく親友にチェスターは即座に謝罪を述べる。


はぁ…とクレスがため息をついた。




「強いって言うか上手いんだよね、動きとか。


 …無駄がないって言うか…なんかやり辛いんだ…」


「…。一度見てみたいもんだな…」


「駄目、絶対くるな」




立ち直れなくなるから、と付け加えたクレス。


クレスの父ミゲールはアルベイン流剣術の師範だ。


そしての父もまた、ミゲールと共に修行した同士であり親友だったらしい。


こうしてが道場に通いだしたのもその縁があったからだったのだ。


チェスターはクレスの落胆振りに苦笑する。




「つってもなぁ…。あんまり言いたくはねーけど、力ずくで武器を振り払っちまえば…」


「やってみたけど上手くかわされてカウンターが帰ってきた」


「…(本当に一度見てみたい…)その腕なら狩りに連れて行けそうだな」


「あ、そうだね。今度誘ってみるよ」




クレスは最後のひとつのサンドウィッチを口の中に放り込み、


ごくんと飲み込むと、傍に置いてあった剣を握りしめた。


両手持ちで構え、上段から振り下ろす…


チェスターは「あ」と声を出す。




「俺わかったかも…」


「えっ?」




なるほどなぁ…とからかうような口調でいうとチェスターは、至極楽しそうだ。


クレスはぎゅっと眉を寄せたが、聞こうとはせずにさっきと同じ動作を2.3回繰り返した。


そこではっとなる。




「…って…」


「あぁ、左利きだな」




利き手の違い。


利き手が違えば踏み込む足やリズムまで逆になる。


クレスがやりにくいと感じた原因はそれだった。




「助かったよ、チェスター!」


「ん。……………………………でも―――


 …遅かったか…」




先ほどとは打って変わった雰囲気で道場のほうに駆けて行ったクレスを見つめ、


チェスターは「あー」と唸る。




「確かには左利きだけど…右も同じくらいに使えるんだよなぁ…」




いってしまえば両利き。


チェスターはガシガシと頭を掻くと矢筒に矢を放り込み、


道場の方向へと歩いていった。




道場の隅で「の」の文字を書いているクレスをチェスターが見つけるまで、後…数分。














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