隣には 君が
















… サンダーブレード …




が右手を頭上へと差し伸べた。


掌から広範囲へと電撃が走り、雁字搦めになりつつあった状態を回避する。


ふぅ…と額の汗をぬぐったクレスは一瞬顔をゆがめたに気付き、そっと歩み寄った。




「大丈夫?」


「…?」


「足…。地についてなくても痛むんだろ?」




クレスの言葉には押し黙る。


…イコール、図星。


それでも余計な心配をかけたくないという思いがあって、


言い出せずにいたのだ。


箒に腰を下ろしながら、はしゅんと俯く。




足の怪我というのは旅の途中…フリーズキールに


剣を取りに言った際のアクシデントで負った怪我のこと。


ミントの法術をもってしても、深く奥まで刻まれた傷は治らなかったのだ。




「大丈夫だよ。


 …ここから少し戻ったところに川を見つけたんだ。


 今日はこのまま野宿になるだろうから、明るいうちにいっておいで」


「…!ぃ、いってくる!」




こそっと耳打ちするクレスに、例を述べるとはクレスが指差した方向へと箒を滑らした。


いってらっしゃい、と彼女の姿が見えなくなるころに呟くと、


自分の背中にいくつもの視線が集まっている事に気付く。


クレスは仲間に応えるように振り替えると、苦笑の笑みを浮かべた。




「まだ痛むのかなぁ…


「すみません…私の法術がいたらぬばかりに…」


「ミントのせいではないだろう…。否、あれは誰のせいでもない。


 そんなこと言っていたらが余計不安がるぞ…?」


「…」


「あぁ、忘れてた。暗くなってくると魔物が出やすいんだった…」




大丈夫かな…一人で。


と後者を強調させる口調でクレスはやれやれという。


そっぽを向いて、はぁとため息をつくクレスだったが、


仲間の痛い視線を浴び続けているのはチェスターだった。




「…。水、汲んでくる…」




適当なバケツをやや乱暴に拾うと、半ば駆け足で木々の合間をくぐりを追う。


全く…とクレスが呟くようにいって、乾いた笑みを浮かべた。


アーチェの視線が悲しそうに細められる。




「………」


「ん?どうしたんだ?アーチェ…」


「…え?ううん、なんでもないよー?ほら、ご飯の準備しようよ!


 …二人が帰ってきたらすぐに食べられるようにさー!!」


「…あ、あぁ…それもそうだな」




クレスは内心疑問に思ったが、アーチェに促されるような形で口を噤んだのだった。









 +









ぴと…




華奢な足が川のすぐ傍にあった溜まり池に沈む。


直後、痛みを堪えるような…奥歯をかみ締める音がかすかに聞こえて、


リーフェは主の麓へ歩み寄り、腰掛けた。


その姿は何時もの猫のものではなく人間そのもの。


髪、瞳、肌、衣服…その全てが白で統一されたどこか神秘的な存在。


困ったように首をかしげると、ふわふわとした髪がそれを習うように揺れた。


口癖になりつつある言葉…リーフェは『全く…』と呟く。




「僕の前なら…我慢する事ないのに…」




こつんと頭をの肩に乗せる。


甘えるような仕草には無言のままで返した。


その代わりによしよしとねこっけの白髪を撫でる。


リーフェは目を細めた。




「主の思ってることはね…わかってるつもりなんだ。これでも」


「…うん」


「でもね、それは…」




寂しすぎるよぉ…




ぎゅっとしきりにしがみつくリーフェ。


はゆっくりと視界を狭めていき…じきに閉じた。




「でも…決めたことだから」




凛とした口調で言い切ると、クリアになった視界で自身の足に目をやる。


白い肌にくっきりと浮かぶ黒い呪文。


足首に行くほどそれは密集していて、足はほぼ黒に染まっていく。





少なくとも凍傷の傷なんかじゃ…ない。




これはその後の…




「(ダオス……)」




「…。主が本当にそうしたいって言うなら、僕は止めない。


 けど…どこまでも着いてくから!


 嫌って言ったって、来るなって言ったって…絶対絶対付いていくからっ」




絶対だかんねっ!


押し迫らん勢いで言い切ったリーフェノ表情は真剣そのもの。


は暫く足の痛みも忘れて勢いに圧倒されていたが、


時期にふっと笑みを零しゆっくりと首をたてに下ろした。









「…うん…。ありがとう、リーフェ」









いつも…傍にいてくれて


困ったとき、助けてくれて


一番に私のことを考えていてくれて…




一生懸命な君へ














の死角に当たるところ…


太木の裏側に腕を組みもたれかかるチェスターの姿があった。


視界を閉ざし瞼の裏に焼きついた光景にそっと息を吐く。




もう、戻れない


もう、引き返せない


ただ、進むだけ…









なら、残されたものは…なにを思う?














(広がっていく距離)(俺から離れていくのか…?)
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