告白の日




















聞き馴染みのある声で名前を呼ばれ、は作業を止めて店の中に顔を覗かせた。


そこには剣術の師匠…そしてクレスのお父さんでもあるミゲールがいて、


はぺこりと頭を下げる。


そして名前を呼んだ…ゴーリに用件を尋ねると、


ミゲールの隣で机に付しているチェスターを指差して




「部屋で休ませてやってくれんか」




と苦笑しながら言う。


二つの返事でそれを了承したがチェスターの肩を揺する。


(…流石に担ぐなんて事はできない)


その時に鼻を掠めた匂いは眉をひそめた。


匂いとはテーブルに転がっているビンからこぼれるそれ。


ミゲールは少し困ったような顔をして、気まずそうに言う。




「すまないな、。少しすすめすぎてしまって…」


「ううん…多分大丈夫ですよ」


「それだといいんだがな」




微苦笑しながらは半分寝起きのチェスターの腕を引くようにして部屋へと連れて行った。


ぼぉ…とした雰囲気を纏うチェスターは酔っていることがわかるような動きをしている。


は何度か声をかけながらチェスターを気遣う素振りを見せていた。


その様子を目の端で見ていたミゲールがゴーリにこそっと漏らす。




「いい嫁になると思わないか?性格もいいし…」




だが、ゴーリはそれには答えず…




「商人から買ったもなんだが…」




ミゲールにより強い酒を勧めた。









 +









「大丈夫…?チェスターのお兄ちゃん…」




ベットへと横たわらせて、は心配そうに問う。


ん…と生返事を返すところを見る限りではとても大丈夫そうではないのだが。


ふぅ…と息を静かに吐いたはせめてもの酔い覚めに


水をとりに種を返した。


一歩。


…それ以上が前に進むことはない。




「………おっ、お兄ちゃん???」


「…」




背中に感じる重み。


首元で交差された腕。


後ろから抱きしめられている。


…免疫のないはドキッ、と身を硬直させた。


肩の上にのせたチェスターの顔が、近いせいも勿論あるだろう。




「………あっ、あのっ!」


「…なんだ」


「え???」









「好き、なんだ……」









意味を理解するまでには時間を要した。


ゆっくりとゆっくりと消化していき、理解したは顔をぽっと火照らせる。


沈黙が続く。


明かりは月光のみの暗い部屋。


はチェスターの手に自分の手の平を重ねた。




「…うん、ありがとう」


「…」




返事はない。


意識が朦朧としているのか。


は握った手をゆっくりと解くと再びベットへと導く。


大人しくなったチェスターを横たわらせると、


酔いも手伝ってかすぐに寝息を立て始めた。




「…。今のは、聴かなかったことにするね?


 また今度…


 今度はちゃんと目が覚めてる時にいってほしいな」




待ってるね。


指の裏で軽く彼の額を撫でて小さく漏らす。


最後におやすみ、と言っては部屋を出て行く。




大小二つの月が、淡く笑んでいた。









 +









短い針が半分回転した頃。


チェスターは頭に鈍い痛みを感じながら目が覚める。


初めは「何処だ…ここ…」と視線を回遊させるがやがて、


記憶の糸を辿っていき先日ミゲールと共にお酒を嗜んでいたことを思い出す。


先ほどから激しいこの頭痛はいわゆる二日酔いだろう。


チェスターは静かにため息を零すと、誰か入るであろう居間のほうへと足を運ばせた。


そしてその場所に思ったとおりの人物がそこにいて、


チェスターは自然と口元を緩ませる。




「ぁ…おはよ。チェスターのお兄ちゃん」


「おはようチェスター」


「…。なんだよ、クレスも一緒かよ…」


「僕がいちゃ悪いわけ?」




ぼそりと零したチェスターの言葉に不機嫌を露骨にするクレス。


まぁまぁ、と仲裁に入るのは勿論の役目だ。




「お水…です」


「サンキュ」




グラスを受け取り早速口に含ませる。




「さてと…僕はこれで…」


「うん、呼び出してごめんね?」


「いいんだよ。流石に放っては置けないしね?」


「?」




じゃあ…と右手をあげて見せたクレスはそのまま店から出て行った。


ドアについているベルが鳴ってそれが止むまで、


2人の視線はクレスに当てられたままだった。


そして一方の…チェスターの視線がへと向けられ、


それが先ほどの会話の疑問を投げられていることを察する




「ミゲールさんが昨晩のみ過ぎちゃったみたいで…クレスのお兄ちゃんが連れ帰りに…」


「…?あのあと一人で飲んでたってことか?」


「うん……ゴーリのおじちゃんに強いお酒を勧められたらしいよ…?」




何で…?


という疑問には流石に答えられず、は苦笑しながらほんの少し首を横に倒して見せた。


曖昧に相槌を打ったチェスターは二杯目の水を受け取る。




「なぁ、。昨日さ…俺へんなこととか言ってなかったよな?」


「……へ、変なこと?」


「なんだかなー、昨日の記憶がぼんやりしてるっつーか…。覚えてないっつーか……」




うーん…と悩む




「変なことは言ってなかったけど…?」


「そっか…」




再び曖昧な相槌。


確かにへんなことは言ってない。


告白の言葉意外は。


けれどもそれは…




「(ちゃんと…聞きたいもん……)」




は胸の奥底に1つの願いをしまいこんだ。









果たしての願いが叶う日は来るのだろうか…?














(たとえこの気持ちが叶わなくたって…)
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