待ちぼうけの日















「あ…いらっしゃい」




淡く微笑んだ彼女の表情は長いこと冷やされていたせいか、


よりいっそう色白に見せている。


頬は寒さゆえの赤らみが存在していて、


見ているだけで寒寒しい。


視線を元の位置へと戻すと彼女はさっきと同じように


その場所に座り、ただじっとしている。


アスファルトを削る雨の音。


大地がはじいた水滴がのブーツをびしょびしょにした。


両手のひらに吐息をかけて暖を取る。


細めた瞳は相変わらずに遠くを見据えている。




「中にはいらねぇのか?」




見かねて俺が言った。


それほど小さな声でもなかったはずなのに、


彼女が言葉に対する反応を見せなかったせいで、


届いていなかったのかと少し不安になる。


少しして、薄く唇を開くと、




「私は…もう少しここにいるよ」




小さく、震える声で彼女は言った。









 +









「待ってるんだってさ」




何でお前がそれを知っているんだ、


という意味合いを持たせた視線を親友のクレスへと投げる。


胸に重たいものを感じながら、睨んでやると、


クレスは裏表のない屈託な表情で「聞いたんだ、ちゃんから」


と淡々と答えた。


一枚窓の外では雨粒が降り注いでいる。


さっきよりも一段と強くなっている気がした。


コーヒーカップに口付けてチェスターは再び問う。




「待つ?誰を…?」


「さぁ?」


「ふーん…」




あいまいに相槌を打って数秒の沈黙。


思考していたクレスがある答えにたどり着いたらしく


ニヤニヤとした笑みを口元に浮かべた。




「心配…?」


「…………何が」


ちゃんのこと」




どこか期待を寄せながらチェスターの顔を覗き込むクレス。


しかし眉がかすかに動いた程度の反応だったので、


少しつまらなそうにした。


そんなクレスに愛想を尽かしたようにチェスターはため息をつく。




「こんな雨の中置き去りにして、心配じゃないわけねーだろ」


「本当にそれだけ…かな?」


「は?」


「いや…本当にそれだけなのかなぁ…って思っただけだけど?」


「……………最近お前、俺に冷たいよな?」


「そんなことないんじゃないかなー」


「目を見て話せ、目を」




あからさまに遠ざけていた視線を戻し、


クレスはクスリ…と微笑んだ。


店に入ってきたばかりの親友が少しは普段の調子を取り戻しつつある。


やれやれ、とクレスは内心ため息をついた。




「教えて欲しい?」


「…………なにが?」


ちゃんが誰をまってるか…」


「………」


「僕は、知ってる」




静かに言い放つと、しばらくの沈黙が二人のあいだに流れた。


切れ長の瞳がクレスを捕らえる。


じぃと見つめるその視線は射抜くように鋭い。


それだけ、真剣ということが見て取れる。




「教えてくれ」


「…わかった」









 +














ちゃんはね…


ずっと待ってるんだ




「風邪引くぜ?」




自分を置き去りにした父親のこと









“ずっと信じてまってるんだ…”














(雨降りの日)(待ってろっていった日)(だから、待ってるの)…
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