お題ログ(ヒロイン9歳―チェスター11歳)















 恥ずかしがりやな君へ5のお題















懸命に手を伸ばす彼女。


どうやらその指の先にあるものを取りたいご様子。


乗っている台はぐらぐらとゆらついていて、


今にもぐらりと行きそうで、見ていてひやひやする。


チェスターははぁ、と溜息をついてそっと歩み寄った。


後ろから――チェスターの身長だと余裕で届く――そっと


腕を伸ばしてやると、夢中になっていてチェスターに


気づいていなかった彼女の肩がびくりと揺れて


同時に重心もぐらついた。




「…わ、」


「っと、ごめん。……どっか打ったか?」




咄嗟に空いている手を伸ばして抱えてやる。


突然のことに驚いたのかチェスターの服をぎゅ、と握ってしがみ付く。


大丈夫かよ、と声をかけるとはっとなったが瞬時に離れた。




「ご、ごめ――、」


「あ、いいって、気にするな。いきなり手、出したのは俺だったしさ」




どんだけびくびくしてんだよ。


身を縮めて胸元で掌をぎゅと握る彼女。


眉をひそめながら不安げに見上げてくる彼女に思わず溜息が出る。




「ほら、これだろ?」




本を差し出すと“!”出す


受け取ってはにかむ笑顔がたまらなく可愛い。


謙虚におずおずと頭を下げて、彼女はひゅんと走り去っていった。









< そういうところも可愛いけれど >









作業が終わったのか店に出てきて、


俺の妹のアミィと話している


女の子通しだからなのか、俺と話すときよりも柔らかい口調で話していて、


笑みを零す回数も多い。


あまり気にかけていることを勘付かれると


後で何を言われるかわからないので


あまり視線をくれてやらないようにしている。




まぁ、それはいい。


アミィとが仲良くしているのは。


問題はその先にあった。


店の隅で矢石を研いでいる俺。


そんな俺にちらちらと視線が向けられる。


だ。


話の合間に向けられる視線。


少し気にかけるように見てすぐアミィに戻される。


その度にアミィが小首をかしげている。




そんなに見るなって、


アミィに気づかれるだろうが、










< …あんまり見んなよ >









お友達になったばかりのちゃんが店の前まで見送ってくれた。


また遊ぼうね、と約束して手を振ってくれる。


私はそれに答えつつ、もう少し残ってるといった兄のことを思い出した。


ゴーリさんが少し出かけていて帰ってくるまで待ってる。


というお兄ちゃんの口実の意図は何となくわかる。




「(少しでも一緒にいたいんでしょ?)」




世話が焼けるなぁ。


そう呟いて帰り道を歩く。


話していたときのちゃんのはにかみ。


時折見せた頬の彩り。


その視線の先には兄。




「(邪魔者は退散ってね、)」




これはいいネタができた。


ふふ、とアミィは笑った。










< 色付いた桃色の頬 >









「よかったな、話し相手ができて」




皮肉でもなんでもない言葉をつむぐ。


しばらくお互いが気まずそうにしていた中での


救いの一言にははっとさせて、うんと頷いた。




「う、うん。アミィちゃんとっても優しいから話しやすいの」


「へぇ」


「お友達になってくれたの…」




純粋にそのことが嬉しいのだと。


は少し髪をいじって微笑んだ。


複雑な心境になるチェスターだが、その表情に


誤魔化される。




「…」


「……?チェスターの、お兄ちゃん?」




急に黙り込んだのでが不安そうにする。


作業をやめて小首をかしげる


チェスターは数秒間静止したかと思うと


溜息を盛大に吐き出しながら机に突っ伏した。




は少しだけ目を伏せた。










< ねぇ、こっちをむいて >









チェスターのお兄ちゃんが伏せてしまってから


かなりの時間が流れた気がした。


実際はそんなにたってはいないのだけど


長くて長くて仕方がなかった。


それくらい窮屈だった。




「チェスターの、おにいちゃん…」




もう一度震える声で何とか言えば、チェスターのお兄ちゃんは


「ん?」と声を上げながら顔を上げてくれる。


藍色の瞳に吸い込まれそうになる。


ドクドクと心が弾んだ。




「おにいちゃ、…」


「…なんだよ」


「………、」




段々と言葉が出てこなくなる。


意識しすぎて頭が廻らない。


くらくらする。


これが「恋」だなんて、まだ9歳の私は気づかなかったけれど。




「…うぅ…」




縋るおもいでしがみ付くと驚いたチェスターのお兄ちゃんは


少しだけ体をこわばらせた。


それから不器用に背中を叩いて私を必死に宥めた。


服越しにチェスターの熱が伝わる。


ふわりとにおいがした。


少し早い鼓動の音。




絡み合った感情の中では必死に彼の服を握っていた。










< 精一杯に差し出された、震える手 >













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