未来編・チェスターの修行のお話















 あしでまとい















「右手、出して」




宿屋に入り一日の疲れをとる。


ここはアルヴァニスタの下町にある宿屋だった。


城内の仮眠室で毎度のことながらとまっていくように言われるのだが


全員が旅の野宿に慣れていてフカフカのベッドが


逆に眠りづらいということもあり此方で休むようにしている。


夜食を全員でとり、部屋に戻る。


よっぽど大きな町でない限り全員は部屋が割り当てられていた。


ちなみに今回は二人部屋が3部屋。


クレス、クラース。


ミント、アーチェ。


そしてのたっての希望でとチェスター。


と分けられた。


アーチェに「ほんとにこんな馬鹿と一緒でいいの?」とあきれられたり、


クラースに「手を出されそうになったらいつでもミントのところに逃げるように」


と念を押されたりといろいろあったが、クレスだけは


私の目を見てかすかにうなずいた。


そして私も頷き返した。




話は冒頭に遡る。









「ふぅー、あっちぃ……」


と風呂から上がってきたばかりのチェスターが


盛大にため息を吐きながらベッドに寝転がった。


ギシシ…とスプリングが軋んだ音を立てる。


ブーツを履いた足は床に投げ出されているが


下手をすればこのまま眠ってしまいそうな様子だった。


私はその半ば投げやりな様子にくすくすと笑みをこぼす。


そしてミントにもらったものを握り締めて


彼のベットのそばに歩み寄った。




「右手、出して」




落ち着いた声でそういうとチェスターは何のためらいもなく


「おー」と零しながら肘から上の部分だけをに差し出す。


頼りのない返事だったので半分うとうとしているようだ。


私は床にしゃがみ込んで彼の手に触れる。


彼の視線が何する気だ?といわんばかりに私を見つめた。


それを見なかったことにしてグローブを剥ごうとする。


チェスターはばっと身を起こして腕を彼女から離した。


いつもの余裕気な笑みを浮かべている。




「俺の手には何もついてねーぜ?な?


 …ほら、お前先風呂はいってこいよ。俺はもう――」




チェスターの言葉が止まる。


それは私の姿を見て押し黙ったようだった。


無表情で沈黙しながら彼を見つめる私を見て少しひるんでいた。


それでも「なんだよ」と怒気の含んでいない低い声で尋ねる。


しん、と部屋が静かに感じた。




「誰にも言わないって約束するから……包帯だけでもいいから、替えさせて?


 ね、お願いチェスターのお兄ちゃん……」




本当は今日はもう稽古をしないで欲しけど……


つぶやくような声で付け加える。


その言葉は静まり変えたこの部屋ではちゃんと聞こえて彼にも伝わった。


そこでチェスターは大人しくなってぶっきら棒に視線をそらした。


私は覚悟していたことだったが眉をひそめた。


彼のプライドを傷つけたのだ。


唇をかんで彼の手をそっと握る。


少し硬くて大きな手のひら。


毎日の戦闘で何十本もの矢を射る指。


「外すね」と控えめに言う。


返事はなかったが特に抵抗もしていないようなので腕の紐をしゅるりと解いた。




「…………」


「…………」




ベットに座ってそっぽを向いたままのチェスターと


荒れた指先を手のひらを見た私の沈黙。


ぬくもりの残るグローブをベッドの上におく。


それから指が荒れた箇所に触れないようにしながら、丁寧に包帯を巻いていく。


相変わらずに続くのは沈黙。




「終わったよ……」




ごめんね。


返事はなかった。


そしていわれたように風呂に行こうと立ち上がったとき、


愛称を呼ばれての足は止まった。




「今日はいかねーから、安心しろ。……後、サンキュ」




湿った髪をガシガシと掻いていった。


その言葉に私はひどく安堵して微笑んだ。




言ったとおりチェスターはその晩修行には行かないでくれた。


ぎこちなかった雰囲気も朝になれば


完全に今までどおりに戻っていてほっとした。


そして同時に。




この旅を終わらせたい。と胸に刻み込んだ。














 +









「あんたこの子に変な事しなかったでしょうね!!」


「ばっ、してねーよ!んなもん!!」


「じゃあ何で動揺してるのよ、このスケベ大魔王!」


「言わせておけば……」


「なにさ!」


「なんだよ!」









「二人とも朝から仲良しだね…!」(ジュースを飲みながら)


「……うん……そうだね……」


「?」















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