看病の日
ごめんね、と頑なに謝り続ける少女に少年はその度に
「気にすんな」とか「もう謝んな」という言葉を紡いでは少女を安心させていました。
言葉自体は雑で一見荒いようにも見えますが
少女にとっては心地よい囁きのように聞こえているようでした。
それは雪の日のある日。
風邪を引いてしまった少女と、それを看病する少年のお話。
+
ほう、とため息、白い息。
吐息が漏れて、唇が一瞬湿る。
雪の温度と体温。
溶ける白は水に変わり流れ落ちた。
―― きっと迎えに来るからね
まだかな。
まだかな。
そうして少女は待ち続ける。
―― それまでいい子にして待っているんだよ
ちゃんといい子にしてるよ。
早く。
早く。
そうして少女は待ち続ける。
―― さようなら
お父さん、
お父さん、
待って、
行ってしまわないで、
寂しいよ、
待ってるのは寂しいよ、
待ってるだけは疲れたよ、
ねぇお父さん。
私いつまで待てばいいの?
独りは、怖いよ――
+
少女が目覚めたとき、瞳には零れ落ちそうな涙が溜まっていました。
今まで見ていたこと全てが夢であり、きっと隠していた自分の本心だったのでしょう。
まだ重みを残す体を少しだけ起きあげて、
少女は途方にくれる子供のように窓の外を眺めていました。
ちらちらと粉雪が舞い降りています。
世界はまだ真っ白と言うわけではありませんが、時期に雪化粧をかぶるでしょう。
触れた窓ガラスはとても冷たいものでした。
「起きたのか?」
少年は静かに部屋に入ってくるとこれまた静かに言いました。
病人を気遣うその気遣いはめったに見せない彼の優しさ。
不器用な少年は少女の瞳に微かに残る涙を見てみぬフリをしました。
「そこは寒いだろ、また熱が上がるぞ」
「うん…ありがとう」
「…バーカ、礼は治ってから言えよ」
ツン、と少年は少女の言葉を弾きました。
けれども少女はそんな少年にくすりと微笑みます。
そんな事とうの昔からのご愛嬌。
「お粥あるぜ。……食べれるか?」
「うん食べる。…チェスターのお兄ちゃんが作ったの?」
「……。どうだっていいだろ、そんな事」
少年は顔をしかめながらも小皿にひとさじのお粥を移しました。
杓文字とその小皿少女に手渡し、ちゃんと受け取った事を確認すると手放しました。
そして少年は少し部屋の温度が落ちている事に気がついて
黙って暖炉の薪を追加していきます。
「美味しいよ」
「……そりゃよかったな」
「また作ってね」
「へ、毎回はごめんだぜ」
「ふふ。…ねぇチェスターのお兄ちゃん」
「ん?」
部屋が段々と暖かくなってきました。
それに合わせて少女の頬も染まっていきます。
ほんのり色づいた朱色でした。
「みんなで雪遊びしたいね」
バーカ。と少年は言いました。
(わかったから……もう寝とけよ)(しばらく雪はやまねぇみたいだから、安心しろ)