破錠 後
















「クレスさん…」




言葉の見つからなかったミントが隣に座るクレスに声をかけた。


いてもたってもいられず…けれども何も力にはなれなくて。


ミントはミントなりの気遣いを働かせていたのだろう。


そんな彼女にクレスは苦笑する事しかできなかった。


たった今目撃した現実がいまでも脳裏に焼きついていて…


複雑な心境にかられていた。




二人はリビングに当たる部屋のソファに並んで座っていた。


さっきの出来事が余りにも衝撃的過ぎて


寝付けそうになかったのだ。


気遣ったミントが部屋に明かりを入れて、ハーブティを用意し、


それがさめた頃になってようやく落ち着いてきた気がする。


余裕のない自分に思わずクレスは自嘲してしまった。




「ごめんね、ミント…君まで付き合わせてしまって」


「そんな事…」


「…。ありがとう」




ふぅ、と一息ついてクレスは続けた。




「相当悩んでたんだろうな。考えてみれば無理もないよ…


 はまだ15歳で、女の子なんだ。普段は僕たちに気を使われないように


 振舞ってるようだけど、本当は、ただ強がっていただけなんだろうな…」


「…。気付けなかったのは私だってそうです。


 いつだって自分の事ばかりで…」




この中で最年長は18歳のミントだ。


だからこそ、余計気にしてしまう。


付き合いこそは短くてもどうしてもう少し早く


気付いてあげられなかったのか。


相談にのることくらいなら、いつだってできたはずなのに。




「ずっと傍にいたくせに、自分の事でめいいっぱいで


 気付かなかったなんて…情けないよ」


「クレスさん…自分をあまり責めないで」


「そう…だよね。こんなんじゃ、余計を不安にさせてしまう」




クレスはそういって手に少し力をこめた。


彼女にいつでも頼ってもらえるように、強くなろう、と。


彼女の不安くらい背負えるように、もっと強くなろう。


そう胸の中で誓って、クレスはミントに微笑した。




「今日のところはもう遅いし、後はチェスターに任せて僕たちは休もう」


「でも…」


「明日朝が起きて、僕たちが体調を


 崩していたりなんかしたら、気に病むだろう?」


「そう…ですよね。わかりました」


「じゃあ…おやすみ、ミント」


「ええ、おやすみなさい」




部屋まで送り届けて、そして別れる。


自分の部屋のベッドに寝転がり、目を閉じると


少しだけトーティスのことを思い出した。









 +









「っいしょっと…」




チェスターはそっとの身体をベッドへと下ろした。


ここは部屋が変わってチェスターの寝室。


あのまま寝入ってしまう勢いだったのだが、


が目覚めてしまったときに


記憶がぶり返すなんてことがあったら酷だと思い、


チェスターが気を利かせて部屋をかえたのだった。


こんな所、クレスやらアミィやらに見られたら


笑いものだな、と自嘲するものの満足している自分がいる。


全てが彼女の為。


そういってしまうのは大げさなのだろうか。




「…ぁえ?」




妙な声を上げたのは他でもない本人だった。


先程までの形相が嘘のようにいまは普段どおりに寝ぼけている。


15歳の女の子…聞いたまんまのそれだった。




「なんで、チェスターのお兄ちゃんが??…はれ?」


「……。」




チェスターは一瞬ためらい、そしてニヒルな笑みを浮かべて


こういった。




「たっくよ、何でか聞きたいのはこっちのほうだぜ。


 人が気持ちよく眠ってるトコもぐりこんできやがって…」


「え…!?」


「だってここ…俺の部屋だし、なぁ?」




はくるりと暗い室内に目を配った。


そして僅かに違う家具の位置に気がついて


はっと顔を赤らめたのだ。


咄嗟にごめんなさいと謝り、しゅんとなってしまうのだから


なんだかこちらのほうが悪い事をしてしまったようだが


そこは譲れない。




あのときの暴走を本人は覚えていないようだから都合がいい。


いっそ、忘れてしまえたらどんなにいいか。


皮肉にもあの時の出来事というのは彼女の心の奥底に


根太く浸透しきっている様子で、今日みたいに、


ふとした拍子にぶり返し、自分自身を傷つけてしまう、


だなんてケースは過去にも数回あった。


思い出さなくていい。


誰も、お前を責めちゃいないさ。


背負わなくたって、いいんだぜ…?




「お前、抱き枕決定な」


「はえっ!?」


「おや?何か言いたい事でも?」


「はぅ…」




背中に手をやってぐい、と半ば強引に引き寄せるチェスター。


そんな大胆な行動にドキッと胸を高鳴らせる


そういった感情に疎い彼女。


胸を高鳴らせる感情に疑問符を残しつつも、


やがては眠りの波が引き寄せられ、そして、誘われる。


微熱を宿した寝息がこぼれはじめたのはしばらくしてだった。



顔を覆い隠していたウェーブがかった髪を後ろへとはらって、


チェスターは目覚めてしまわない程度に強く抱きしめたのだ。














(…それでいい)(お前は俺に守られていればいいんだ…) inserted by FC2 system