My whereabouts



















〜離別の章〜
















あれから…




シェールっていう商人にあってから、の奴に変わりはない。




相変わらず隙だらけの笑顔でニコニコしてるし、


日課になりつつある常連(オレ)にコーヒーを淹れたり、


ゴーリの親父の店の手伝いや、習い事の剣術…


誘えば喜んでついてくる(そして迷う)南の森での猪狩り。


以前南の森で傷ついていた赤目の白猫(以外には懐かない憎たらしい猫)とじゃれていたり…




いつも通りの日常。


毎日の繰り返し。









ただ、今日は違うようだ。









何も知らなかった俺はいつも通りにゴーリの店へと距離を縮めていく。









 +









「いま…なんていったの?」




今までしていた作業をやめて、は振り返らずに言う。


先ほどゴーリから告げられた言葉は確実にへと届いている。


けれどもそれをもう一度聞こうとするのは、確認するため…だろうか。


これだけ言えるのはの言葉には怒気が含まれているということ。




「…」


「約束…したじゃない。…破るの?ゴーリのおじちゃん……」


「だが…」


「破るんだね?」


「、」


「そっか」




ぐっと目を閉じ奥歯をかみ締めるは何かを耐えているように見える。


ゴーリに二言を言わせないように、短い言葉で終わらせると、


今置こうとしていたそれを再び持ち上げ背中へとまわした。


…それは父から譲り受けた細身の剣だ。


流石にゴーリの表情にも雲がかかる。




「条件を出したのは、ゴーリのおじちゃんなら分かってくれるって…思ってたからだよ」


「…」


「初めからこうしてればよかった…」




ベルトを締めて旅支度を終え、扉の前に立つ。




「……………………………勝手にしろ」




うん、と小さく呟く。


目を合わせないように背を向けているゴーリに


ごめんなさい、という言葉を胸のうちで消化する。


口に出しては言わない。


もしかしたらこれが最後かもしれないのに…




開いた扉からは明るい光と二人の人影に目を細めた。




「……あ」




扉を閉めて鉢合わせる。


2人とは勿論クレスとチェスターのこと。


双方とも武器を装備していることからこれから狩にでも行くのだろう。


は押し黙る。




「やぁ、。今から南の森に行くから…も誘おうっていってたところなんだ」


「…来るだろ?」


「…。今日は無理なの…」


「じゃあその剣は……」


「―――ごめんっ」




余計な詮索を拒むようには2人の間を通り抜けて走り去る。


いつもとは違う様子の彼女に違和感を覚える二人は、


思わずとめることを忘れて顔を見合わせてしまった。


そんな間に彼女はどんどん小さくなる。




「ど…どうしたんだろ…。」


「………、とりあえず…ゴーリの親父ならなんか知ってんだろ」




聞いてみようぜ。


から視線が外れない親友の腕を引くと、


目の前のドアノブを捻った。




暗い…


一歩足を踏み入れての感想はそれだ。


奥のほうにひっそりとただただ立ち呆けているゴーリの姿はあるものの、


その部屋はあまりにも殺風景だった。


今までにこやかに笑んでいた花が消えてしまうとこうも変わるのか…




「お前達か…」


「どうしたんだよ、の奴…。喧嘩でも―――」


「―――後を追え」


「はぁ?」


「聞こえんのか、後を追えと言っているんだ」




やや命令口調なゴーリ。


声には何の感情も込められておらず、余計に怒気を感じてならない。


こんな暗い部屋でならなおさら…


食って掛かろうとするチェスターを右腕で制し、


クレスはゴーリの元へと歩み寄った。




「なにか…あったんですね?」




いたって冷静にクレスは問い尋ねる。


ゴーリは暫く黙ってから、口を開いた。









「父を探すと…家を出て行きよった……」









「!!」


「…!」




壁にもたれていたチェスターが慌てて身を起こす。


家出、という言葉に「そんなはずは…」と躊躇うものの、


先ほどの彼女の装備を見る限りでは納得せざる終えないだろう。


となると…




「僕は…後から追うよ。おじさんが落ち着いてから色々聞かないといけないこともあるし…」


「あぁ、わかった…!」


「それと、チェスター!心当たりとかってあるかな?追いやすいんだけど…」




クレスの問にチェスターは視線を下げて思考をめぐらせる。


そして以前旅商人のシェールの故郷が北に位置するということを思い出した。


の故郷も同じ…つまりは北。




「北だ」


「わかった…。必ず追いかけるよ」




チェスターは先ほどと同じ言葉を繰り返し言って、


扉を今度は出口として利用する。





彼女の無事を思いながら、軌跡を辿った。














inserted by FC2 system