My whereabouts



















 〜独旅の章〜
















「お水です」




とりあえずイスに座らせて落ち着くのを見計らってからのクレスの一言。


目を伏せたままのゴーリから感じ取れるのは強い後悔の念。


クレスはエトワールと先に行った親友のことを気にしながら、


ゴーリの手にコップを握らせた。


エトワール一人いなくなったのこの店はとても寒々しく感じる。




「…何が、あったんです?」




沈黙を破ったのはほかでもないクレス。


少しの遠慮を含ませた口調。


それはクレスの優しさだった。




「約束を…しておった」


「……約束?」


「あぁ…」




ポツリポツリと紡がれていく真実。


ゴーリの握るコップの中の水の水面が揺れて、


彼が様々な思いを胸に震えていることがわかる。


ゴーリの言葉に時期に目を見開いていくクレス。




「…!それじゃあトワは…父さんを探しに…っ!?」









 +









帯の中に大切にしまい続けていた…


それでももうすでに褪せてしまった紙切れを開いて、


エトワールは唇をかみ締める。


頭の隅から離れないのは先ほどの光景。


自分の言ったこと。


今まで何不自由なく育ててくれた人への恩を仇で返すような仕打ち。


はぁ…とつくため息は途方もなく消えた。




… ミャー …


「…?」




エトワールの耳に不意に届いたのは聞き覚えのあるそれ。


音源を辿るようにしてバックの中を手探りすると、


そいつは悪びれた様子を見せずに出てきた。


全身真っ白いふわふわの毛で覆われ、赤い瞳が特徴的な…




「……リーフェ!」




みゃー。


ご主人に名前を呼ばれたリーフェは楽しそうになく。


エトワールの手の中から逃れて安々と腕の中まで移動する。


わわ…と動揺しながらもしっかり受け止めてやると、


リーフェは満足げに尻尾を立てた。




「つ…ついてきちゃったの…?」


『えへへ…』


「うーん…」




暫く悩んだ後、まぁいいか、という解決になった。


もともと一人じゃ心細いというのもあったわけだし…




「一緒にいこっか、リー………」


『…!後ろ!!』


「…!」




――― ザッ ――




リーフェの鳴き声にエトワールははっとなり反応した。


不意打ちをつかれながらもエトワールはソードを抜きながら


そっと身をかわしてそいつを見据える。


きっと睨むように見たそいつは棍棒を手にした小熊だ。


数は3…油断は出来ない。




「……バグベア…かな…っ?」




村を出て初めての魔物。


いままで南の森に出る猪や鳥なんかしか相手にした事のない


エトワールを動揺させるには十分の相手だった。


それでもしっかりとソードを構え敵と向かい合っている。




「(ここで長引かせて体力削るってのは…痛いよね…)…くっ!」




―― 魔神剣 ――




細身のソードを地面を削るようにして振り上げる。


薙ぎ払ったときの衝撃波が三体のバグベアを宙へと誘う。




―― ビシュ…ッ ―― タタタッ ――




一瞬の空を切っていく音。


バグベアの身体に容赦なく突き刺さるのは矢。


はっと見開いたエトワールはたった一人…


弓を得意とする人物を浮かべながら、恐る恐る振り返った。


少し離れたところで弓を下ろす…




「チェスターの…お兄ちゃん」




力が抜けたように座り込む。


ソードを杖のようにしてもたれかかり、肩を上下させる。


何度も吸ってはいてを繰り返しながら、


ゆっくりと歩み寄ってくるチェスターに眉を潜める。




「(……怖、かった…)」




彼女はまだ14歳。


同じ年頃の女の子ならあんなモンスターと対峙するなんてことない。


もしかしたら一生そういう類の生き物に


会わなくても生きていける人がいるかもしれない。


それを怖いと感じるのはごく自然なことだ。




「怪我は?」


「………大丈夫、」


「…。立てるか?」


「……。構ってくれなくても、平気だから」




出てきたのは強がりの言葉。


平気なわけない。


一人じゃ厳しかった。


(何でそういう事言うかな…)


と内心自嘲するエトワール。


極めつけは




「あれくらい、一人で倒せたもん」




…もう、泣きたい。














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