My whereabouts



















 〜夕闇の章〜
















ふい、と視線をチェスターから逸らして、


北のほうへと歩き出す。


ほったらかしにされた人物は盛大にため息をついた。


…私って馬鹿。


ソードを背中の鞘にしまい、隣をリーフェが歩いていると言うことはわかる。


そして後ろは…




「…………………如何して、ついてくるの?」


「オレもこっちに用があるからな」


「…………嘘ばっかり」


「嘘じゃないさ。オレはに用があるんだ」




つまりはこのままだとずっとついてくるつもりだと…


歩みを止めると後ろの足音も止んだ。


ぐっと黙り込む。




「ついて来ないで」


「そりゃまた、どうして?」




皮肉めいたしゃべり方でチェスターは言葉を返す。


さっきより静かな感じのするそれは、


の反応を伺っているようにも見えた。




「私…まだ帰るわけにはいかないの。


 どうせ、私を連れて返るようにおじちゃんに頼まれたんでしょ?


 私はまだ帰らないから…。




 これは……絶対よ」




様々な感情の押し篭った少し低めの声。


特に最後の言葉には言葉の中にとげが含まれていた気がする。


何があろうとその意思は曲げない。


そういう彼女の一途な一面は滅多に見ることはないが、


言葉にした以上それは確実にさせるだろう。




「わかったならもうついてこないで」


「…」




最後のほうは小さく呟くような音量だった。


目に浮かぶ涙に気づかれないように、


は一歩、また一歩と歩み始めた。


後ろからの足音は…聞こえない。


ただ去っていく音も聞こえないから、


彼はその場で自分のことを見つめているのだろう。


どんな表情をしているのか…それはわからない。


怒ってるのかもしれないし、


哀れむように悲しんでいるかもしれない。


…もしかしたらそんなことちっぽけも思ってくれないのかも。


残念と安心の狭間。


余計に泣きそうになる。




「話、聞けって…」


「…聞くことなんて無い」


「…ったく…。


 オレがゴーリの親父に頼まれたのは……」




『―――後を追え』




「…けどさ、“連れて帰れ”とは言われてねーんだよ」




チェスターの言葉の意味を思考し、


足がぴたりと止まる。


つまりは


「連れ戻す気はないが、このまま一人で帰るつもりは毛頭ない」


…と。


そう思ってもいいのだろうか。


それは彼の優しさだと、素直に受け入れていいのだろうか。


雫がとうとう零れ落ちた。




「わかったからもう泣くなって」


「…っ」


「なんだよ…そんなに怖かったのか?」




喉をえぐえぐと鳴らしながら必死になくのを押しこらえる。


それでも止め処ない雫が頬を伝って、


顎を伝いしまいには零れ落ちる。


両手の項でそれをぬぐう彼女は


涙が邪魔をして話すことができないようだ。




「落ち着いたら…出発しような。…一緒に」




最後に付け加えた言葉に、はまた泣いてしまうのだった。









 +









冷たい小川の水に手を差し込む。


ひんやりと手のひらに伝う温度に心地よさを感じていた。


両手で掬い上げ口へと含む。


ごくんとなる喉は乾き具合を示していた。




「おいしい…」




口の端を持ち上げて喜ぶ。


するとチェスターは確かめるように彼女と同じ動作をして水を飲んだ。


相槌を打ってこれまた同じように口角を持ち上げる。


は微笑をこぼしながら立ち上がり、


紅に染まる空を見上げて、ため息をついた。




「日が暮れちゃうね」


「あぁ」


「そしたら夜になっちゃう…」


「…?当たり前だろ?」




一度頷いては背を向けた。


その理由がわからずチェスターは首をかしげる。




「一人の夜は…怖いかもだし……」




もし彼が来てくれていなかったら、


一人でこの闇の中を野宿しなければいけない。


夜というのは夜行性のモンスターにも


もちろん注意しなければいけないわけで…


女の子が一人で夜を過ごすには少しばかり酷というものだった。


チェスターは一度黙り込んで、ふっと口端を持ち上げる。




「クク…。かも、ねぇ…」


「うぅ…意地悪」




背を向けた理由は照れ隠し。


先ほどの彼女の言葉を思い出し、


いくらか機嫌をよくするチェスター。




辺りを夕闇が覆い、二つの月が大地を照らした。














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