(ユーリ)









 Janne Da Arc 抜駆









「見ろよユーリ」


は目を離すとすぐにいなくなる。

どこぞのジュディさんと同じだなと、見つけ出す度に思っては深くため息をついて見せた。

下町時代もふと姿が見えないと思えば結界の外まで彼女を探すなんてざらだった。

フレンがこの光景を見たらなんというだろう。



あの心配性のお節介の事だから、「全く君って人は」からはじまり

小一時間ほどお説教食らうところだったろうに。


「(見つけるのが毎度俺でよかったな、ほんと)」


人の気苦労を知ってか知らずか、目の前のお嬢さんは悪びれた様子もなく

柄にもなくきゃっきゃとはしゃいで、指先にとまる小鳥に夢中だ。

本日何度目かの落胆の息を落とすユーリ。


「まったく、このお嬢さんは。ちっとは無断外出を控えて欲しいもんだな」

「性に合わねーんだよ。誰かさんと一緒でさ」

「知ってる。けど、エステルが心配してたぞ。姿が見えないって」

「……。お前、その名前だしたらいいと思って」

「本当のことだしな」

「……」


余裕たっぷりにそう呟くように言うと、さっきまでの天真爛漫な笑顔はすんと消え去り

目の前の小鳥に目を落としてはむっと仏頂面をする。

はエステルに弱い。

いつもは大胆不敵にへらへら笑ってる彼女もエステルの天然さにかかれば

ぐっと言葉を飲み込ませ、いくらか素直になるからはたから見てて面白い。



本当に表情がころころと変わる人だ。

そのせいで実年齢よりいくらか幼く見せるので、自分と3つも違うなんて最初は気づかなかった。

そっと隣に腰を下ろすと彼女の「あ」という言葉と共に小鳥が指から離れてしまった。


「心配性な奴ばっか」

「言えてるな」

「お前も」

「あ?」

「いつも悪いな」


決して目を合わせずに言う彼女はこういう時だけ大人びて見えた。

ずっとそうしてしおらしくしていれば落ち着きのある年相応に見えるものを。

似合わないといえば似合わないが、彼女の心の内を覗けたような気分にもなる。

本当に、どっちが“素”なんだろうな。


「外にいる方がいくらか調子がいい。空気がいいんだろうな」


出会ってまだ指折り数える年月だが、彼女は体が強い方ではない。

本人悟らせまいと取り繕っていたためこのユーリですら気付くのに時間を要した。

何度か闇夜にまぎれて血を吐いているのを見たことがある。

これは勘だが持病、というより職業病に近い、気がする。

なんとなくだが。


「調子悪いのか」

「さあ」

「おーい。はぐらかしても無駄だからな」

「いつかばれる様な嘘はつかねーっての」

「なら」

「本当にわかんねーんだよ」


少なくとも今は悪くないな。とだけ呟くとは芝の上にごろりと横になる。

これ以上聞いてくれるなとでも言いたげな雰囲気だがそれを許すユーリではない。


「ちょっといいか」

「?なんだよ」


が仕方なく目をくれてやる。

思っていた以上に真剣なまなざしで射貫かれ、固まってしまう


「アンタはどうして“俺を頼ろう”って思わないんだ?」

「今回の話?自由行動中じゃん。ユーリにはユーリの」

「どっかの誰かさんが無断で結界の外出歩いてる中、こちとらおちおち休んでられねーよ」


ユーリの突き刺すような一言に押し黙る

もし心の声が聞こえるなら「この心配性が」とでも言っているのだろう。

睨みつけるように見返すとそこには大胆不敵の笑みを返すユーリ。


「でも、なあ」

「くくっ、折れないねえ」

「……」


だが、ここで引き下がるユーリではない。


「じゃあこうしようぜ。俺はの外に行きたいって言う我儘を聞く代わりに

 は俺の我儘を聞く」

「交換条件?」

「そうともいうな。それなら変な引け目感じることもないだろ?」

「ふっ、確かに。それで、どんな条件を出されるわけ?」


飲める条件なんだろうな。

さっきの真剣なまなざしはどこへやら。

ユーリは子どもっぽい笑みを浮かべながら指折り提案する。


「例えば俺の要求するスイーツを作ったり、俺の行きたいとこについてきたり」

「それじゃあ下町の時と変わらねーじゃん」

「あとは」

「あとは?」


可笑しそうに笑って彼の行動すべてを受け入れる。

ごろりと横になったユーリの頭が足を折るように座っていたの膝元へ。


「俺を甘えさせるとか」


片目をぱちっと開いてを見上げながら言うユーリ。

そんな彼の額を指先で「こら」と小突く。

そして先ほどまで小鳥と戯れていた指先は誘われるまま

彼の持つその長い黒髪の間を通っていく。


「エステルたちはいいのかよ」

「いいんじゃないか?後でちゃんと謝れば」

「それじゃあ本末転倒だっつの」

「ははっ、いいんだよたまには」


調子がいい事。

呆れたようにため息をつくのはの方。

本当にに調子がいいんだからと呟くが、その指はしっかりユーリの機嫌を取っていた。

日が傾き、空の色が夜色にグラデーションがかかるまで

2人は川べりで穏やかな時を過ごした。




何食わぬ顔で帰る二人にリタの雷が落ちるまであと数時間。














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