(Web拍手掲載分・レイヴンの妹)
こんな日常に憧れた
「おっ、じゃないの~。なかなか顔出さないからどこぞでくたばってんじゃないか、ってドンが心配してたわよ」
驚く、が1番だった。
目の前の夢のような現実に戸惑いを隠せない。
なんで。
どうして、兄さんが。
接触してるの。
お互いが互いの立場の関係上、共に行動なんてありえなかったのに。
今の彼とは10年近く、他人として相容れぬ道を歩んできたのに。
期待と、落胆を恐れての警戒心が胸の中でざわめく。
彼の表情からは何も読めない。
ただはひたすらに発言から意図を汲もうとすぐに思考をフル回転させた。
腰に手を当て、
「なんで俺様がよりによってアンタのお目付役なんかしなくちゃなんないのさ」
とやれやれといった風に肩を落として息をつき、胡散臭さたっぷりのレイヴン。
紛らわせるにはちょうど良い臭さだったようで、周りの仲間たちも「知り合い?」と小声で聴きながらも、変なのに絡まれてる、くらいにしか思ってないのが幸いだ。
仲間に悟られないように、気づかれないように、仮面をする。
売り言葉に買う言葉を慎重に、かつ、この場に適した最良を選択していく。
問いただすのはいつでもできる。
兎に角今はこの場を納めなくては。
「…げ、面倒くさいやつに見つかっちまったぜ」
「面倒くさいはないでしょーが。散々人の事避けておいて」
「別に。…ってか、それなりに元気でやってるのでご心配なく。適当に伝えておいてよ。はい、お仕事お疲れ様」
「駄目駄目、首根っこひっ捕まえてでも連れて来いって言われてんだから」
「……」
押し黙る。
突き放してみて、反応を見たがやはり接触には何かしらの意図があるようで共に行動する理由付けのようにも聞いて取れた。
「なんだ、おっさんと知り合いか?」
ユーリが問う。
レイヴンは待ってましたといわんばかりに、の返答に食うように続ける。
「よう、また会ったわね、青年」
「何。ユーリ何で知ってんの?」
「ちょっと、な」
「ふーん」
「で、おっさんはこいつとどーいう関係?」
「――気になる?」
片腕が首にかけられて距離が一気に縮まる。
顔と顔が密着するほどの距離に勘違いするものも多いだろう。
他の人の目には、どう映るんだろう、と思う。
けれども求められているリアクションはこれを許容する事でないと察することが出来たのは、兄弟だから、だろう。
にやりと笑ったのが視界の端に映り、は至極面倒くさそうにかけられた腕を両手でつかむ。
「調子に」
ぐっと力を込めると、上半身を前に倒しそのまま彼を背負い投げた。
宙を舞う。
彼のコートが風をばさりと切る音を立てた。
「乗るなっつの!!」
「っと、うわぁあ」と情けない声をあげながらごろごろと転がっていたが、反応よりも痛みは少ないはずだ。
腰に手を当てて、もの言いたげに見下ろしていると、レイヴンは設定を周りに周知させるように手をひらひらさせた。
「っと、冗談じゃないの!ま、俺様とはギルドでむかーしからの付き合いってだけよ。まぁ確かにちっちゃい頃はよく俺様の後ろくっついてどこに行くのも一緒で本当にかわ――って、嘘嘘!もう言わないから詠唱ストォーップ!」
「二度目はないと思え」
「…は、はい。スミマセンデシタ」
今のは演技でなく素だった。
さらっと本当のことを織り交ぜてきやがって。
展開していた術式を止めると、レイヴンはほっと息をついて同じ色の私の瞳をじっと見てきた。
正解らしい。
そして、これは夢でも何でもなくって本当の事らしい。
まさかまた一緒に生活できるなんて思わなかった。
「(あぁ…くそ)」
鼻がつんとして、目頭がかっと熱くなるのを額に手を当て盛大にため息をつくことで誤魔化す。
ふっと気を緩めてしまうとすぐにでもしずくがこぼれ落ちてしまいそうだった。
「はぁ、もう付き合ってらんね。勝手にすれば」
捨て台詞のように吐き捨てると仲間に今にも泣き出しそうな顔を見せないように、宿の方へと歩き出した。
一緒に旅が出来る。
扉をぱたりと閉め一人きりになった時、頬に一粒、流れて落ちた。
(…泣き虫は相変わらずねえ)
(なんか言ったか、おっさん)
(べっつにい)
(2019.08.29)