(2019.05.14)









 11.生みの親と育ての親









ハ・ミルとは違う穏やかな風景が全体に広がっていた。

のどかな雰囲気の、村。

ニ・アケリア。

里の中央には川が流れており、樹で作られた橋で渡ることが出来るようになっている。

他にも丸みを帯びた家。

家畜。

畑。

里の所々に祠があり、精霊の像が祭られていた。

そのくらい里全体で精霊への信仰が高いことが伺える。

子どもたちは元気に追いかけっこをして走り回っていた。

なんとなく、なんとなくだがこのあたりの微精霊は非常に温厚で精霊術に不慣れなであっても、親しみを持って宙に舞う微精霊を感じることが出来た。


「おぉ、これは、マクスウェルさま」


よくぞお戻りになられました。

そういって、地に座り込み、まるで神を崇めるように手で印を結ぶ。

その声につられて近くを歩いていたものは全員集まりミラの帰りを喜ぶように声をあげる。


「うむ、今帰った。早速で悪いがイバルはどこにいる?」

「はい、マクスウェルさまの戻りが遅いと心配して、今は不在でございます」

「そうか、相変わらず短気だな。手を止めさせてすまなかった」


ミラが歩みを進めると、道を歩いていたものは全員足を止めてその場に座り、手を重ねる。

その光景にアルヴィンもジュードも「やっぱり本物なんだ」と小さくこぼしていた。


「ん、なんだ?」

「いやぁ、この里にはマクスウェル様のご両親とかいるのかなって」

「精霊に親がいるはずないだろう」

「…。じゃあミラはどうやって生まれたの?」


驚きを隠せないミラにが素朴な疑問をこぼす。


「今の姿になったのは20年前。四大の力を伴いこの里の社の出現したのだ」

「ん?確か、4大精霊の術って今は使えなくなってるんだよな」

「うん、20年前の大消失以来そうみたい。…私たちは生れる前の話だけど」

「4大精霊の力が突然消えて世界中がパニックになったんだって」


そこまで考えた時に、一致する二つの事象にアルヴィンが「もしかして」と顔を曇らせる。

時を同じくして20年前、4大精霊の力が世界中から消え、そして、ミラが登場した。


「まさか、大消失の原因って…」

「うむ、私だ。私の世話をさせるため、四大を私の専属にしたせいだ」

「まじで…」

「嘘をつく必要はないだろう」


改めてミラの不思議な生い立ちに驚かされる。


「じゃあ、ミラの育ての親はその四大たちなのね」


がそういうと、ミラは「育ての親」という言葉にきょとんとして、そして照れくさそうに「そういう事になるな」と話した。

ミラが少し考え込んだことに気付きが隣に行くと、ちょうど呼びかけようとしていたといわんばかりにミラはにこりとする。


「私はこれから社で再召喚の儀式を行う」

「そこで、四大たちを呼び起こすって事?」

「ああ。しかし生憎巫女が不在のようだ…手を貸してくれないか?」

「…私にできることなら勿論」

「有難い」


四大の召還には村の中の祠に祀られる「世精石」というものが必要とのこと。

それぞれ風、火、土、水と四つの属性をつかさどっていることは容易に想像がついた。

村を真っすぐ道沿いに上ると早速、風の世精石を見つけは両手に納まるそれを大切に抱きかかえた。


「っと、力仕事は男の仕事かね」

「そうだよ、アルヴィン」


そう言っての両隣に立つ二人はいつの間にか仲良くなったらしいアルヴィンとジュード。

両手で抱えていた石もいつしかジュード手に移っており、はミラと目を見合わせて肩をすくめた。


「すまない。社は村を進んだ先だ」

「手分けしたら早そうだね。私、こっち見てくる」

「あ、僕も一緒に行くよ」


すぐ単独行動しようとするの後を追うようにジュードが行く。


「あ…一人で、行きたかった?」

「別に、どっちでも」

「そっか」


その二人の後姿を見てアルヴィンは肩をすくめると「じゃ、俺たちは反対側を行きますかね」と手をひらひらさせた。




 +




「のどかな村だね」


元々口下手なと歩く道は静かで、本人はまるで気にしていないようだったが、いてもたってもいられなくなったジュードが絞り出すように言う。


「そうね」

「…うん。あ、それにしてもミラが本当に本物のマクスウェルだったなんてね」

「…?最初から名乗ってなかったっけ?」

「でも急にそんなこと言われても普通は信じられないよ。それに、ミラを育てるために大消失が起きて、四大が親代わりって話も」

「確かに…いろいろなことが一気に起きすぎて、感覚がマヒしてしまってるのかも」

「はは、言えてる」


ゆっくり村の中を歩いているとハ・ミルとは違った過ごしやすい気候、雰囲気にどこか旅の事が遠のくような錯覚に陥る。

追手から逃れるために文字通り船に飛び込んでからは、慣れないことだらけで中々落ち着く暇がなかったからちょっとした平和ボケをしてしまいそうだとジュードは苦笑した。

ふ、とジュードが思い当たる。


「そう言えば、の両親ってどんな人なの?」


出会った頃にはハウス教授のもとで自立した生活を送っていた。

自分のように学業の為に親元を離れている風でもなく、そういえば親の影も感じさせなかったものだから今まで何となく触れていなかった部分だ。

は決して目を合わせることなく少しだけ俯くと「そうね」と前置きをした。


「素敵な人よ。2人とも研究家で父さんが薬、母さんが植物に詳しくて」

「へえ、じゃあのその知識は両親から教えてもらったものなんだ」

「そう。優しくて、仲が良くって…本当に自慢の家族よ」

「そっか」

「…でも、もうずっと会えてないけど」


ジュードが「え」と歩みを止める。

会ってない、ではなく、会えていない。




頬に心地よい暖かい風が吹いた。




キャラメルの様な色の髪を揺らして彼女が振り返る。

表情が見えて、そこでようやく、彼女が笑ってない事に気が付いた。




(どうしてだろう。目が、離せなかったんだ)




離してしまったら、もう二度と、合わせて貰えなくなるんじゃないかって














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