(2019.05.21)









 13.迫害される少女









「僕、ミラたちと一緒に行くことにしたよ。今の僕の力でもできる事をしようって決めたんだ」


村に戻り、先に戻っていたアルヴィンとを見つけると、ジュードは思い切って告白する。

その言葉にアルヴィンは彼のお人よし加減に呆れたように肩をすくめ、はというと腕を組み無表情で押し黙っていた。


「そういう事だから」

「…なんでそれを私に言うの」

「なんとなく聞いてほしくて」

「…。知らない。でも自分で決めたんならそれでいいんじゃない」

「うん、ありがとう」


相変わらず突き放すような言動の彼女に、アルヴィンは肩をすくめたがジュード本人は満足そうだった。


「アル兄はこれからどうするの?」

「なんだおチビ、俺との別れが寂しいってか?」

「…お前なんかさっさと行っちまえ、馬鹿」

「もう、アルヴィンがそんなこと言うから」

「ま、実際お役御免ってとこなんだけど…」


ぷいと拗ねた様子のと宥めるジュードの脇を抜けて、ミラが「世話になった」と礼を言う。

するとアルヴィンはニヤリと笑って続ける。


「謝礼ならもう村のじいさんに貰ったぜ。マクスウェルさまを守ってくれてありがと~ってな」

「む、長老だろう。…だがアルヴィン、それは私の報酬ではないぞ」

「爺さんも爺さんなりの誇りがあるだろ。断るのも失礼ってもんだ」

「…そういう、ものか?」


そういうもんなの。とチャリチャリと音のなる布袋をしまい込むと、不貞腐れるの頭をぽんぽんと撫でるアルヴィン。

縮むからやめろと、は不機嫌にその手をはらった。


「ま、報酬以上に貰っちまったし、もう少しお前たちに付き合うよ」

「ふふ、そうか。心強いよアルヴィン」

「うん、ありがとう」

「旅は道連れってね。で、どんなご予定で?」


村の入口では村の者たちがお見送りに集まってくれた。

それぞれが手を重ね、「いってらっしゃいませ」「お気をつけて」と口々に言う。

中でもイバルが自分も着いていくと言い張ったが、ミラは「お前の為すべきことはなんだ」と一蹴していた。



落ち着いたところで今後について話し合う。


、どう思う」

「…ジュード君の話していた四大があの装置にってのは十分に考えられるよね。ミラの方が詳しいと思うけど、大精霊ってようはマナの塊なんでしょ?」

「つまり、クルスニクの槍は四大を捕らえる程の装置って事?」

「…おそらく。私もあの機械の全部を知ってるわけじゃないけど。破壊にせよ、四大の解放にせよイル・ファンかな、とは」

「ふむ。なら目指すは海停か。…封鎖されてなければいいが」


ハ・ミルにあれだけの兵がいたのであれば封鎖は容易に想像が出来る。

渋い顔をした


「と、なると山脈越えは難しいからサマンガン海停からカラハ・シャールの線だろうな」

「…ならハ・ミルを通って海停だね」

「そうね。ラシュガル兵の動向もわかるだろうし」


話がまとまると、通ってきた道を引き返すようにキジル海爆へと進んでいく。

背後に視線を感じて振り返る

目を凝らしてみても何も見えずに首をかしげると、仲間の後を追うように駆け出した。




 +




2,3日ぶりに戻ったハ・ミルの村は以前立ち寄った時とは比べようにならないほど殺伐とした空気が漂っていた。

相も変わらず果汁や果実酒の香りはどこからともなく立ち込めているものの、人の雰囲気、顔つきが全く違う。

広場に行くと負傷者も多く見られ、誰に聞くまでもなくあの時のラ・シュガル兵の仕業に間違いないだろう。

中央では人が集まりこの村に不釣り合いなほどの賑やかさに一同顔を見合わせる。

それは、異様な光景だった。


「この疫病神め」

「…きゃ、…や……」

『ひどいことしないでーやめてよー』


村の人たちが一人の少女を囲み石を投げていた。

これにはジュードもも目つきが変わる。

口を閉ざしたまま話の中に入っていくものだから、アルヴィンは何度目かわからないため息をついた。

もジュードのお節介を気にするが、彼女も彼女だ。

似た者通しの二人は、石を投げている人物の腕をつかみ上げ静止させると少女の元に駆け寄った。


「大丈夫?」

「…」

「頬、切れてる。女の子の顔に傷が残ったらどうするの」


はジュードに頷きかけると、お手製の血止めの塗り薬を塗布すると「これですぐによくなる」と微笑みかけ、続くように大人たちを睨む。


「お前たちのせいでこっちは散々じゃ」

「ラ・シュガル兵にやられたか」

「それで子どもに八つ当たりって、大人げないな」

「…。よそ者に関わるとロクなことにならん。早く出ていけ!」


果実を快く譲ってくれたあの時の村長とはまるで別人のようだった。

周りを見渡すと負傷者だらけだった。

全く関係のない人たちなのに、匿っているとでも言われ攻撃されたのかもしれない。


「…」

「あ!」


村長が離れるのと同時に、少女も駆け出し村の外れへ。

後ろ髪ひかれる思いで気に掛けるジュードにミラは察したように「私たちは村の人たちに事情を聞こう」と言い放つ。

ぱっと顔を明るくしてジュードはお礼を言うと女の子を追って行ってしまった。

腕を組むが険しい顔で言う。


「甘やかすんだから」

「意外だな。君もてっきりついていくと思ったが」

「お生憎様、私は誰にでも優しいわけじゃないの。でも、ジュード君はどうでしょうね」

「…一緒に行けないかなーなんて言い出したりしてな」

「………」

「…睨むなよ」

「どちらにせよ、私たちの目的は変わるまい。今は情報収集だ。だろ、


淡々とそうね、とだけ返すと苦手な人付き合いの為にはぁとため息を吐き出す。


「お前、結構気に掛けるのな」

「何の話?」

「ジュードだよ。元々そんなに人に執着無かったろ…どういう関係?」


何か勘繰る訳でもなく率直な疑問、と言った風にアルヴィンは尋ねる。

他意はないことを知るとは少し考えてから、


「知らない。…ただの腐れ縁ってやつじゃない?」


と言葉を濁して、ミラの後を追い、適当な村人に声を掛け始めた。




間もなくして、ジュードが少女と人形を連れて戻ってくる。

アルヴィンがふざけるように言い放った言葉が一語一句同じ状態で彼の口から飛び出し、がアルヴィンを再び睨みつけるまであと少し。


「一緒に行けないかな」




「………」

「だから睨むなって」














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