(2019.05.23)
14.友達の友達は友達
『途中、足手まといになっても仮に命を落としたとしても捨ておくだけ――私の使命に影響はない』
ミラに悪意はない。
非道にもとれる思考はやはり人間的なそれではなかったが、それでもあの時ジュードに言った「為すべきことをそのままの君でやってみたらいい」という言葉を撤回するつもりもないようだ。
ちらり、と横目で少女を盗み見る。
村人たちの話を聞くに、自分よりも2、3ほど年は下だが大人顔負け精霊術を使うという。
奇抜なぬいぐるみは相も変わらず彼女の腕の中に納まったり、彼女の近くをゆらゆらと浮いていたりと隙だらけで力が抜けてしまう。
「そういえばまだちゃんと紹介してなかったね」
「エリーゼ・ルタスです」
『僕はエリーって呼んでるけどねえ』
「(エリー…)」
「ふーん、こりゃあ5年後にはすっごい美人になるな。俺はアルヴィン、その時までよろしくな」
『あーこれってナンパだー。アルヴィン君はナンパマン!』
あの、その、としどろもどろするエリーゼとは裏腹に、まるで面白いおもちゃを見つけた様にくるくると旋回するティポには「正しくはロリコンって言うのよ」と淡々と伝え、それを冷めた様子で「おい」とアルヴィンがあしらう。
「私は。よろしく、エリー」
「あ…よろしく、です。あ、あの、さっきはありがとうございました」
『君のお薬いい匂いしたねー』
「…ラベンダーの軟膏使ってるから。夜また塗ってあげるね」
「はい!」
わーい、君すきー、とティポはそのぐにぐにの体をの頬に押し付ける。
彼?なりのハグのつもりらしい。
エリーゼも胸の前で手を重ねて嬉しそうに頬を赤らめ、その姿には柔らかく微笑み返すものだから他の三人はそれぞれ瞬きをしたり、顔を見合したりと驚きの反応を見せた。
あのが穏やかな口調で話しかけ、柔らかく微笑んでいる。
「なーんだあれ…」
「あ、そういえばイル・ファンにいた頃も、子どもとは何故かすぐに打ち解けて、泣いて病院に来た子も笑顔で帰ってたような」
「ほう、は子ども好きのようだな」
「そうだね。あれで結構優しいところあるし」
「おチビ同士波長が合うんだろ――って、あっぶね!」
「…逃したか」
脚力を活かした回し蹴りを寸前のところでかわされはぼそりという。
「ジュード君も、次はないから」
「何で僕まで!?」
「…」
「ご、ごめんなさい…」
「ジュード、さっきのは失言だったようだな」
「行こ、エリー」と振り返る表情は柔らかくてその対応の差がさらに男性陣にダメージを与えた。
喧嘩ですか、と細々とするエリーゼに「ただのスキンシップよ」と答えると背中から「そんな暴力的なのあるか!」とアルヴィンから抗議の声が上がったが、それは無視だ。
ふふ、と噴き出すようにエリーゼが笑うので、は満足そうだった。
(あ、れ…僕ってやっぱり塩対応されてる…?)
(おーおー、お姉さんぶってやんの。ま、元々そういう気質だよな)
(む、しかしこれは中々…面白くないな)
それぞれがそれぞれの思いをごくりと呑み込むと、まるで姉妹のようにすぐに打ち解けた二人から目をそらした。
+
海停につくと、以前とは打って変わって和やかな雰囲気に思わず警戒を解いてしまいそうになる。
あれほどいた兵が数えるほどしかおらず、あっという間に船着き場のところまでたどり着くことが出来た。
「イル・ファンへの船は出てますか?」
「首都圏全域に封鎖令が出たおかげで全便欠航なんです」
「他の便は?」
「今はサマンガン海停行きしか出てません」
サマンガン経由となるとカラハ・シャールからの経路になる。
しかし道はある。
その可能性が見えると全員は頷きあって人数分の乗船チケットを購入した。
出発までは時間があるからと先に船で休む人と、商人からたびの道具を揃える人とに分かれて行動することにした。
初めての旅に疲れているだろうとエリーゼと一緒に先に休もうか、と声を掛けるも、が道中で手に入れた野草の種やらパウダーやらを売りに行くというのを聞くと、一緒に行きたがった。
町の商人を見つけ、がコートの中から小瓶やら袋を取りだし、旅の道中でしれっと手に入れていた植物たちを卸していく。
「わぁ、沢山ありますね」
『君のコートの中は異次元だね』
「野草やハーブは種類によって効能も違うし、そこでしか取れないものもあるからある程度ストックしてるの。お薬にしてもいいし、たくさん採れた時はハーブティにしても美味しいのよ」
「あ、僕もイル・ファンにいた時に寝る前よく淹れてもらってたな。のカモミールティはすっごく飲みやすくて美味しいんだよ」
「そうなんですか!」
『すってきー!』
そう言って、ジュードはイル・ファンにいた頃卒業論文の為に夜更かししていたお供に彼女が気を利かせてハーブティを入れてくれたことを思い出す。
「…ジュードとは一緒に住んでたんですか?」
「ううん。でもジュード君の借りてた部屋とはリビングが一緒だったから、時間が合えば…くらい?」
「そうだね。僕は本業の学生の方が忙しくてほとんど学校か研究室だったし、も病院にいることが多かったしね」
『じゃあつまりー、ジュード君と君は友達なんだね!』
そう言われて、二人ははた、と目を見合わせる。
最近もアルヴィンに関係を尋ねられたばかりだが、改めて尋ねられると困るものがあった。
同じ教授の助手と、生徒。
あの時はアルヴィンに「腐れ縁」と答えたが、「友だち」かと聞かれると難しく考えてしまう頭がある。
違…わなくはない。けど。
「僕とエリーゼは友達になったんだもんね」
「はい!…なので、あの…とも、友達になりたいです!」
勇気を振り絞るようにそう言うと、は表情をふっと緩めてエリーゼの顔を覗き込む。
「ねぇ知ってる、エリー。友だちの友だちは、もう友だちなんだよ」
「?えっと…」
「僕とは友だちだから、とエリーゼはもう友達ってこと」
「!」
頬をリンゴのように赤らめるエリーゼの周りをティポが「よかったねー」と嬉しそうに回る。
もつられて笑うと、査定の終わった商人から代金を受け取り、コートの内ポケットにしまった。
「お姉さん、かなりの目利きだね」
「ありがとう。両親にかなり鍛えられたから」
「そっちのカモミールもよければ高値で引き取るけどどうする?」
「ごめんなさい、また今度で」
そう言って小分けしたままポーチの中にしまっていく。
明らかにほかのハーブよりもストックの多いものだったが、ジュードも「さっきの話の流れだからきっとハーブティにでもするんだろう」と深読みしなかった。
いざという時の鎮痛剤はこれから作られていたなんて知るよしもなかった。
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ぽちり