(2019.06.20)









 19.出会いの街









カラハ・シャールの街は入口から商人たちの声で賑わいを見せていた。

所々で商人たちが自慢の品を露店のように広げ、中には世界各地の珍しい品が並びそれを求める町の人たちの熱で町が活気づいている。

町の中央にある大きな風車の様な装置は風の精霊術で動いてるものらしく、町全体にさわやかな風を送り出していた。


「やっと、カラハ・シャールについたね」

「わぁ、大きな町ですね」

『でも人がいっぱいいすぎてウザイー』


エリーゼに抱かれながらティポがぼそりという。

顔色を悪くしたとそれに付き添うアルヴィンを外れに残したまま一足先に町に到着した一行。

後ろ髪引かれているエリーゼは時折来た道を振り返り、彼女の影がないか探しては落胆し肩を落としていた。


、大丈夫でしょうか」

「――あの感じ、大丈夫ではないだろうな」

『えー!?そうなの!?』

「やっぱり、迎えに行った方が…」

「だが、彼女も落ち着いたら合流すると言っていた。なら信じて待つしかない」

「…心配だけどアルヴィンもついてるし無茶はしないと思う。、冗談で嘘つくときはあるけど、約束を破ることは絶対にしないから」

『へぇ、ジュード君は君の事よく分かってるんだね』


ティポに核心をつかれて、はっと息をのむジュード。

そんなことない。

よく分かってる、わけではない。

あの時、あの場面においてはきっと自分よりもアルヴィンの方が彼女の事をわかってるのだと思って身を引いたくらいだ。

彼女の複雑な仮面の奥の素顔を実際未だに見るに至っていない気もする。


(でも僕は今、彼女の元に残らなかったことを後悔している)


わからないから、わかる人に任せただけの事だ。

彼女にとってその方がいいと身勝手な言い訳をして、自分はきっとアルヴィン以上に出来ないからと目を瞑ったのだ。

――出来る、出来ないじゃないはずなのに。


「そんなことないよ。むしろわからない事ばかりなんだ」

「ずっと一緒にいるのに、ですか?」

「そう。だからこれから少しずつ知っていかなきゃね」


次は。

次こそはこの後悔をしないように。

エリーゼにニコリと微笑みかけると、彼女もまた安心したように頷きミラが先に除く露店の方へとと駆け出していった。




 +




しばらく経って、日が真上に昇ったころに遅れて到着したとアルヴィンは仲間たちと合流する。

人の多さに少し戸惑ったが、長い金髪の女性に宙を浮かぶぬいぐるみという目を引く面々のおかげで人づてにすぐにその情報を得ることが出来たようだった。


「もう大丈夫なのか?」

「うん、問題ない」

『僕もエリーもメッチャクチャ心配したんだからー!』

「ごめんね、二人とも」


柔らかく微笑む彼女の表情からは先ほどまでの血色の悪さは感じられない。

ぎゅう、としがみつくエリーゼの髪を優しく撫でると、僕もーといって、ティポも顔を押し付けて来た。

そんな光景にアルヴィンは肩をすくめた。


「にしても、流石の兵の数だな」

「僕たちの事があるんだと思う。さっき店の人が話してたし」

「あまり長居は出来そうにないわね」

の言う通りだ。木を隠すには森の中というが…」

「でも、ドロッセルがお茶に誘ってくれてましたよ?」

「…ドロッセル?」


が首をかしげるとジュードが簡単に合流する前の出来事を説明してくれた。

町に到着し兵たちの動向を探りながら様子を伺っていたところ、店先で知り合ったドロッセルという女性と執事のローエンと仲良くなったとのこと。

詳しく話を聞くと、ドロッセルが気に入り購入しようとしていた骨董品が実はイフリートが焼いたものではないというのをミラが見抜き、店主にぼったくられることなく済んだらしい。

その後、お礼にとお茶に誘われたはいいが、先を急ぎたいミラとしては「そんな暇はないのだがな」と渋っていた。


「ま、この町にいる間は利用させてもらう方がいろいろ都合がいいだろ」

「確かにそうかも、こんなに厳重じゃ宿にも泊まれなさそうだし」

「…お言葉に甘えてお邪魔してもいいんじゃない?もしかしたら新しい情報が手に入るかも」


だってここ、カラハ・シャールは“出会いと別れの街”なのだから。


「ふむ。なら南西地区といったか、お茶にするとしよう」


使命を重んじるミラが珍しく寄り道を許諾したことに一同はふっと微笑む。

南西って言ったらこっちだな、と土地勘のあるアルヴィンを先頭に町の中を歩き始めた。


10分も歩いたところで門の前に人影が二つ。

それがこちらに気づくと大きく手を振って場所を知らせてくれるものだから、すぐにドロッセルとローエンなのだとわかった。


「お待ちしておりましたわ。あら、そちらの方は」

「俺はアルヴィン、こっちが。こいつらの連れだよ」


そう言うとドロッセルは頬を赤らめて自己紹介をしてくれた。

すぐにの手を取りよろしくね、と言う彼女に、ははにかみながら「宜しく」と答える。

それにしても、とジュードは目の前のお屋敷に圧倒され、溜息をついていた。

後で聞くと、ドロッセルの兄は六家の一つ、シャール家の領主とのことだった。


ガチャリ、と思い扉が開く音にミラは眉根を顰め剣の柄に手を当てたのをアルヴィンが冷静に制する。

音源の方に視線をやると、屋敷の中から先程から街中でよく目にするラシュガル兵と、男が2人。


「…」


額に傷のある大柄の男と、その後ろをついて歩く人物の姿には精一杯のポーカーフェイスで押し黙る。

隣にいるアルヴィンをちらりと睨むと、知らんふりを決め込むようにどこか遠くの方を見ていた。


(ナハティガルとジランド…どうしてここに)


は誰にも気づかれずに細く長い息を吐ききると、仲間たちの影になるように気配も息もひそめてやり過ごす。

馬車に乗り込み、視界に完全に映らなくなると、ローエンはぼそりと「お客様はお帰りになりましたか」と呟いた。

姿が見えなくなった後も心臓だけは誤魔化すことが出来ず、涼しげな表情とは裏腹にばくばくと喉のあたりまで音が煩かった。


「やぁおかえり、お友達かい?」


遅れて出てきたのは青いコートを身に纏った好青年で、ドロッセルの兄であり、この町の領主とのこと。

仲のいい兄妹で、ドロッセルは兄に駆け寄ると嬉しそうに事の次第を話していた。


「ははは、妹がお世話になったようですね。立ち話もなんです。どうぞ、屋敷の中に」


優しい言葉に導かれるように後を追う仲間たち。

たった数分前までこの場にいた嫌な記憶たちを胸の奥隅へとしまうと、も続いて屋敷の中に足を踏み入れた。














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