(2019.07.12)
24.光を見届ける
落下している浮遊感と下から吹き上げる風、そして膨大なマナを全身に嫌というほど浴びる。
先程のクラマ間道での訓練を思い出しながら、あの時体で覚えた通り必死に自分の中のものを留めることなく循環させる。
それを、相手が欲している分量ずつ丁寧に送り込んでいった。
リリアルオーブを共鳴させて、慎重に相手の意志を汲み取っていく。
後はローエンがコントロールしてくれるのだと思えばいくらか気が楽だった。
「見えた!アルヴィン!」
「だが、こう揺れちゃ」
精霊術の魔法陣の上に乗っているとしても不安定に変わりない。
咄嗟にジュードがアルヴィンの懐に入り、標準を合わせやすいように肩を台代わりに提供した。
「これなら?」
「気が利くな」
―― バンッ !
狙った先は全員の願い通りブレることなく一直線にコアへと目掛けて発射された。
パリン、とコアの欠片が粉砕する。
収集されていた光が解放されて、それと同時に町の人々を幽閉していたロックが外れたのか、ふらふらと言う足取りで、中から人が飛び出してくる。
相当な量のマナを抜かれて脱力感が酷い人たちの介助を行うジュード、、エリーゼ。
目立った外傷もなく、意識もしっかりあることから、大事に至る前に止められたのだと胸を撫でおろした。
「旦那様!」
「うぅ…すまない。忠告を聞かずに突っ走った結果がこれだ」
「ご無事で何よりです」
「ナハティガルはここに来ているのか?」
「僕も、あの男を問い詰める気で来たのですが、親衛隊に捕らえられてしまって」
そうか、とミラは言う。
コアを失い、完全に機能を停止したこの空間をは改めて見渡す。
マナを採集する装置。
繋がれたコード。
操作盤。
間違いなく自分が元々いた施設に合ったものと類似している。
「…」
コアさえあれば、再びこの場所が起動することも考えられるのだろうか。
建物の中央で頭上を見上げて深く息を整えた時、コアだったものの近くにあった固まりが反応するように光りだした。
「危ない、下がれ!」
「…!」
それはまるで、卵の殻を脱ぎ捨てて孵化する時のような一瞬の光景。
巨大なそれは鋭い爪と虹色に輝く羽を持ち、自分たちの存在に気づくや否やすぐに襲い掛かってきた。
「な、何こいつ…!」
「来るぞ、構えろ」
「強力な精霊術をまとっています」
「でもこの感じ、どこかで…」
「分析は後にしてくれ!」
… 魔神剣 …
… 魔神拳 …
― 魔神連牙斬 ―
2人の息を合わせた攻撃が命中するが、纏っている精霊術の効果か手ごたえがない。
大きな羽を振り回す攻撃は範囲が広く、こちらの行動を一気に制限したり、また毒性のある鱗粉を上空からまき散らしてきたりと非常に戦いにくい相手だった。
今までの魔物とはまた違った感覚。
仲間たちはそれでもくじけずに挑みかかっていく。
毒処置を優先して引き受けていたがふとあることに気付いた。
(この感覚、知ってる)
そこから一つの決心をすると装備していた投げナイフを腿のホルスターにしまう。
完全なる無防備になった状態で、彷徨うように浮遊するその存在に一歩ずつ歩み寄っていった。
「…!」
「ジュード君、今度は私に任せて」
「え?」
「――はああああっ!」
「ミラ、駄目だよ」
「何のつもりだ!」
剣で切りかかろうとしていたミラの間に入ったジュードに叫ぶ。
よく感じてみてよ、と誘導した視線の先は半信半疑だった自分も目を疑うほどの光景が広がっていた。
先程までの敵意は彼女…の前では皆無となり、静かに様子を伺っている。
が手を伸ばして触れようとすると、まるで共鳴しあうように光が呼応をはじめた。
強く共鳴しているのは皮肉にも自身の胸のところにある黒匣の部分。
生まれつき動きの悪い心臓の為に取り付けられた、精霊の化石がそうさせているのだろうか。
(――痛くしてごめんね)
優しく触れると、パンと弾け、蝶の形をしていたそれは一瞬で光となって宙高く舞い上がる。
光の粒子。
眩さに目が眩む。
「微精霊だよ」
武器を構えていた仲間たちが警戒を解き、溶けていく光を見て感嘆の息をあげる。
虹色だった羽が完全に光となって消えていくのを最後の一粒が消えるまでじっと見守る。
「、ジュード、ありがとう。我を忘れ、危うく微精霊を滅するところだった」
ミラは穏やかな口調で言った。
最後の一粒を見届けた後で、振り返ったの表情は誇らしげなものだった。
+
町に戻った一行はドロッセルの迅速な手配もあり、すぐに病院へと連れていかれた。
「徴集された民もみな、命に別状はないようです」
「みなさん本当にありがとうございました」
「私からも、お礼を申し上げます。ありがとうございました」
「みんな無事でよかったです」
幸いにも見立て通り全員が命に別状はなく、速報を聞いたジュードたちはほっと息を吐いた。
安否がわかればもうここに残る所以はない。
ミラは「では私たちはいくとしよう」と立ち上がるとティポは『えっ、もう!?』と驚きの声をあげた。
「ここからだとガンダラ要塞を抜ける必要があるな」
「ラ・シュガル軍が常に手厚い警備に当たっているはず…策無しの突破は困難でしょうね」
「ガンダラ要塞という事は…みなさんの目的地はイル・ファンですか?」
「そうだ、あそこにはやり残したことがある」
やり残したこと…クルスニクの槍の破壊。
そして新たなところで言うと捕まった四大精霊の解放。
その言葉にクレインは口元に手を当ててしばらく押し黙り、そして真っすぐにミラを見据えた。
「さんも仰る通り、流石に押し通すことは難しいでしょう。僕の手のものを潜ませて、通り抜けられるように手配してみます」
「…僕たちに協力なんかして大丈夫なんですか?僕たち、軍に追われている身ですし」
「匿ってる、手を組んだ、なんて言われてとばっちりが来るんじゃないかしら?」
「元々我シャール家はナハティガルに従順ではありませんし、先程軍に抗議し、兵をカラハ・シャールから退かせる様に手配したところです」
「これ以上軍との関係は悪化しようがないという事か」
となると、無策で突っ込むより借りれる手は借り、手を施した方がいいに決まっている。
考え込むように黙っいたがミラに頷きかけ、ミラも少々渋りながらではあったが「では、頼んでいいだろうか」とクレインに伝える。
クレインは快い二つ返事で、それを了承した。
「手配は上手くいっても、しばらく時間はかかるでしょう。それまでどうぞ、ここに滞在なさるといい」
「ありがとうございます!」
『わーい!まだドロッセルくんといっぱいお話しできるねー』
「ふふ、そうね」
「今日はもうお疲れでしょう。部屋を用意させます」
クレインの言葉に甘えるように、一同は頷いた。
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ぽちり