(2019.08.22)(2019.08.28)









 31.赤いリボンの道標









道中ずっと胸に引っかかっていたのは「なぜあの場所にのナイフがあったのか」という事。

しかも出会った頃からずっとお気に入りで片時も離すことなく身に付けていた赤いリボンも付けて。

そしてその引っ掛かりはガンダラ要塞に乗り込む前にローエンが地図を開いたのをきっかけに何かが弾けた。


「もしかしたら」

「ん、どうしたジュード」

「どうしてがあんなことしたんだろうって、ずっと考えてたんだ。これだよ」


地図を指さす。

カラハ・シャールと、そして現在いるガンダラ要塞を順に。

それがなんだと眉根を寄せて肩をすくめるアルヴィンと、しばらく凝視したのちあることに気付く。


「赤旗、ですね」

「おそらく。ナイフの向きで位置を、赤いリボンで危険ってことを…。ガンダラ要塞に危険があるって伝えたかったんじゃないかな」

「ひゅう。おチビは街の位置関係も地図見て“記憶”してる。…やるじゃん優等生」

「後から増援が来ることを信じ、あれだけの敵に囲まれた状況下でのご決断。中々出来る事ではありませんよ」

「無茶ばっかりするんだから…ホント」


少なくともこれが正しければ彼女が仲間を裏切るようなことはしていないと証明になる。

ならば次に気がかりなのは連れていかれた仲間たちの安否。

ミラも彼女以上に度胸の据わった無茶ばかりする人物だ。

早く、合流しなくては。


「行こう、助けなきゃ」


そう言うと、後ろでアルヴィンは「優等生は優しいねえ」と小さくこぼした。




一人目の仲間、と合流できたのはそれから半刻した時の事だった。

内通者の手引きがあり無事に内部に侵入することが出来た3人は、慎重に探索を進めていた。

ラ・シュガル兵に見つかり、増援を呼ぶ兵から逃れるように走っていたところ、「こっち」という聞き馴染んだ声。

声の先を辿るとそこには見覚えのある仲間の姿があった。

急に腕を引いたかと思うと手ごろな部屋(倉庫だろうか)に仲間全員を入れ込んだ。


!なんで」


彼女は「しっ」と指で口を抑えると、そのまま何桁かのパスコードを電子版に打ち込み扉を閉める。

兵たちの足音が前の廊下を通過し、遠くに消えていくと4人は強張らせていた緊張をふっと解いた。

一番近い場所にいたジュードが改めて彼女を見やって安堵する。


「無事だったんだね。本当によかった」

「…ローエンを知る兵が手を貸してくれたから」

「怪我はありませんか?」

「平気。それよりミラたちの呪環を外す制御盤を探さなきゃ」

「あ、ちょっと待って」


が早速立ち上がろうとした矢先のジュードの一言にはあからさまに機嫌を悪くした。

ジュードが取り出して見せたのは、あの時カラハ・シャールの街に残してきた彼女の愛用のリボンとナイフ。

彼女はそれをじっと見つめるとぼそりと「ありがとう」とこぼしそれを受け取り、すぐに顔を逸らしてしまう。

ナイフは腿のホルスターに。

しかしリボンは中々つけようとしない事に疑問符を浮かべると、アルヴィンがそっとに手を伸ばした。


「こりゃ酷くやられたな」

「!」


彼女の左頬に手を差し込み、髪を持ち上げるとそこには鬱血したこめかみ。

咄嗟にがアルヴィンの手を払いのける。

隠すように顔をそむけるの腕を捕まえたのは険しい顔のジュードだった。

その位置、鬱血の度合い。

それはカラハ・シャールで最後に見た男にはたかれた時のものだとすぐに記憶が結びつく。


「…見せて。治療するから」

「痛くないから平気。それより…時間がない。早く移動しないと」

「こんなに鬱血して痛くないわけないでしょ。それに頭は怖いんだよ?」

「そんなの自分が一番わかってるし、本人が問題ないって言ってるんだから大丈夫」

「どうしてはいつもそうやって!」


互いに熱くなる性格じゃない2人、こんなにヒートアップするのは滅多にないことだ。

アルヴィンは「おいおい…」と呆れ、その言葉に二人の気持ちも収束する。

ジュードが心配から言っていることも、が仲間の安否を気遣って言っていることも、互いにわかっているのだ。

どちらともなく、ごめん、と謝る。


「ではこうしましょう。ジュードさんが治療を行い、その間に状況整理とこれからの動きを確認しましょう。さん、見たところこの地に詳しいようですが」


こめかみに手を添えられるは見られたくないのか始終渋い表情をしていた。

ジュードの治癒功を受けながら「私、ここにずっと住んでたから」とカミングアウトする。

それぞれの反応があったが気にせず続けた。


「制御室は南部下層にあるところで変わってないと思う。大通りを通るより通気口通ったほうが兵と接触も少ないし、このまま降下していこう」

「案内、任せてよいですかな」


「うん」と

もう頬の状態はだいぶいいらしい。

話を聞きながらも治療を続けていた目の前のジュードはそれが終わっても険しい表情のままだった。

思いつめた表情。


…帰ったらちゃんと話してくれる?」


ジュードの声は先ほどよりも心配が増していた。

足を止め、俯くはしばらく考えて「ちゃんと帰れたらね」とだけ言い通気口へ手を伸ばした。




 +




大きな扉をロック解除し、階段を下りていくとミラの声に一同は目を合わせて駆け込むように飛び降りた。

制御室で人体実験も行われていたのか、増霊極のサンプルとして捕らえられ、複雑なコードに繋がれたティポと元々そこに実験体がいたであろうカプセルが嫌にでも目についた。


「なっ、貴様どうやって!」


その傍らには不安そうに見守るエリーゼとドロッセルの姿もありほっとする。

相手が意表をつき唖然としているのを狙って、は実験の数値を取る研究員に迷わずナイフを投げた。


「お、お前は…」

「返してもらうから!」


ティポを掴むとエリーゼの方に放り投げる。

しっかりと受け取ったことを確認すると、今度はミラの横に立ち、ジランドの方を睨んだ。


「遅くなってごめん」

「全くだ」


ミラと短い言葉を交わす。

2人とも見つめる先は同じだった。














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