(2019.11.17)









 50.友達を追って









『最初に登場したのはキタル族代表だ!先日不幸な事故はありましたが大会執行部の努力により本日の決勝戦が実現しました!』


裂けるようにアナウンスに会場は煽られどっと沸いた。

ミラは一人、闘技場の中央へと進み相手チームと対面した。


(努力、ねぇ)


当初の話では決勝は明日行われるはずだった。

それなのに、大会本部は決勝戦を予定よりも一日はやめるだけでなく、「代表が死ぬまで戦い続ける」という前王ルールというのが適応されるらしい。

先日の毒に続き、このルール適応の背景は間違いなくアルクノアが関与しているとみて間違いないだろうとミラは言った。


(そこであえて誘いに乗って炙りだそうなんて)


ハイリスクなことこの上なかった。

しかしようやく尻尾を掴めたのだから、とミラは意志を貫いた。

その代わり、と何かあってもすぐに駆け付けられるように、対処できるようにとローエンの指揮の元、観客席には2グループに分かれて監視することとなった。

ローエン、ジュード、ユルゲンスのチーム。

そしてアルヴィン、エリーゼ、レイアと

後者にはまだ毒が完全に抜けきっていないの事を配慮されて治癒術が使えるメンバーが多く配置された。


「無理、しないでくださいね」

「そうそう、何かあったらまーたジュードのお説教食らっちゃうからね!」

「ありがとう。アル兄もいるし、きっと大丈夫よ」

『…そこが一番の心配だったりしてー』

「はっ、ひでーや」


は隣で自分の体調を心配するエリーゼとティポに微笑み返しながら観客席からミラの姿を見下ろした。

薬の事件があってしばらく姿を消していたアルヴィンは、ミラによってアルクノアと関与している事を突き詰められ、仲間はそれを聞いたらしい。


(どこまで、みんなは知っているのかしら)


心底ショックを受けていたのはジュードだったらしく、彼の「もうアルクノアの仕事をしないって約束してくれる?」という問いに「誓うよ」と言ったらしいその場面に立ち会えなかったことを後悔する。


―― ジジジッ


敵チームの持つ鉄の塊が光ったかと思うと一気にミラに向かって閃光が走った。


「微精霊たちの悲鳴が…また間に合わなかった」


それを見事によけるミラは、大きく目を見開き歯を食いしばる。

詠唱も行われずに繰りだされた精霊術が何によるものなのか、精霊の主はすぐに勘づく。

隣に座っていた気配がすっと遠のき、は喧噪の中、目線だけは彼女を追った。


「エリー?」


ふらり、と探し物を探すかのようにそばを離れた彼女に違和感と胸騒ぎを感じて彼女の名前を呼ぶと、その視線の先にはオレンジ色のバンダナを腕に巻く若者の姿だった。

アルクノアに属するものだという事はすぐに察しが付く。


「何、や、やめて!返して!」

「くっ、その子に乱暴しないで!」

「待って!」


が気付いて駆けつけた頃にはティポを剥ぎ取られ、用済みのようにエリーを放り捨てた後だった。

なんとか腕で抱き留めてエリーゼに大事はなかったが、ティポはアルクノアの手の中にあり、エリーゼはそれを追って走り出してしまった。

離れた場所で監視をしていたレイアが異変に気付き、叫ぶ。


「どうしたレイア?」

「ティポがさらわれたの!エリーゼと…その後をが追って!」


簡潔に状況を話すが、黒匣の兵器を持つアルクノア兵が闘技場に一人、また一人とその数を増やしていった。

3人による攻撃を何とか紙一重で回避しながらエリーゼのことまで気に掛けるなど、今のミラには不可能だった。

ミラが客席の仲間の一人に叫ぶ。


「アルヴィン!」

「…奴等の狙いはお前じゃない。きっと初めからティポだったんだ!俺は知らなかった!」

「お前に任せる」

「何。俺を試して…」

「お前しかいない、頼んだぞ!」

「…ッ」


そうくるかよ、とアルヴィンは狼狽えた。

そうしている間にもエリーゼとの影はどんどん小さくなっていく。

悩んでいる時間などなかった。


「どうなっても知らないぜ」


言葉を吐き捨てたアルヴィンは風のように客の間をすり抜けていった。




 +




エリーゼにはすぐに追いついた。

しかしアルクノアの方は地の利があるせいか兎に角足が速く、休憩を挟んだものならいとも簡単に見失ってしまいそうだった。

ティポがないと精霊術のスキルが格段に落ちてしまうエリーゼと、病み上がりというペアなら一旦引き返して仲間と合流してからでないとという思いも脳裏に過る。

しかし、今彼らを見失ってしまうことは、同時にティポを諦めることになりそうで、は苦渋の決断でエリーゼと先を進んだ。


「ごめんなさい、私。どうしよう」

「大丈夫よエリー」


双剣とホルスターのナイフをすぐに取り出せるように装備する。

リキュールボトルを一気に煽り、一時的に毒の効果を遅らせるとは目印のように木の表面にナイフで傷跡を残しながら先に進んだ。

脳裏に展開させる地図が正しければ、この先は王の狩場と言われる場所だ。


「…まだこちらに気づいてないみたい。一気に行くから援護宜しく」

「は、はい!」


エリーゼも杖を構える。

普段はジュードやミラ、レイアあたりに前線を任せてばかりだったが、この二人なら自分が前に出るしかない。

合わせると鋏のような形状の丸い柄のナイフを左右に構えると、未だにこちらに気づいていない2人のアルクノアと一気に距離を詰めて切りかかった。


「せいっ!はっ!」

― 鳴時雨 ―

「なに!?」


油断していたのか隙だらけの懐に入って一気に連続攻撃を繰り出す。

完全に不意打ちを狙ったおかげで双方の体制を乱すには十分で、今の隙にと片方を蹴飛ばし、もう一人が抱えるティポに手を伸ばす。


「させるか!」


ぶん、と空を切る音と共に繰りだされた攻撃がよけきれずに腕に命中する。

ただでは起きない、と足払いをして見るが体格差のせいか、まだ本調子じゃないせいかあっさりとかわされてしまった。

そのままカウンターを狙われそうになるのをエリーゼのネガティブゲイトで相殺する。


「くっ、待て!」


腕を抑えて痛みに耐えているとアルクノアの2人は奥へと奥へと逃げていった。


「ごめん、掴みそこねちゃった」

「それより、あの」

「私は平気。それより後を追おう。次はエリーの大切なお友だち、ちゃんと取り返すから」

「うん…」


エリーゼに簡単な応急処置をしてもらって、2人も頷きあい、奥に進むために大地を蹴った。














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