(2019/07/16)Web拍手掲載分
TOX・ジュード・甘め









おあいこ









「おや、さん早いですね」



の朝は早い。

日が差し込むと同時に目が覚め、洗面や髪のブラッシングなど簡単な身支度を整えると町のすぐそばの薬草やハーブを採りに行ったり、武器の手入れをしたり、静かに本を読んでいたり。

仲間たちがぞろぞろと眠たい目をこすりながら起きてくるまで朝日を浴びながら気持ちのいい時間を過ごす。

よほど急ぐ時は起こして回るのもいつしかの役回りとなっていた。

朝が弱いメンバーが多く、あくびをしたり目をこすりながらも、自力で起きてくる男性陣はまだ可愛い方だ。

エリーゼも朝は弱いが声をかけると男性陣と同じようにぼんやりとしながらちゃんと身支度を始める。

特に手がかかるのはレイアとミラだ。

この2人に関しては、扉の外から声をかけたくらいじゃまるで起きてこない。

ミラに関しては寝ぼけてファイアーボールを飛ばしてくることもあるので、起こし方にも気を使う。

実に厄介なのだ。

以前手のかかる精霊様だな、と小声で呟いたアルヴィンの髪が少し焼けて大騒ぎしてたっけ…。


「ローエンこそ」

「年寄り早起きですから。もしよろしければ、ご一緒にモーニングティでも如何です?」

「是非。…ローエンは座ってて、私が淹れてくるから」

「おや、朝からなんたる幸せ。お言葉に甘えても?」

「勿論」


もう、大袈裟なんだからとはにかむ彼女はぱたぱたと台所を借りてお手製のカモミールティを用意する。

日によってローエンが用意したり、が用意したりまちまちだ。

仲間たちが起きてくるまでの時間を談笑しながら過ごす。

話し下手なだが、豊富な知識と経験を持ったローエンは話をするのも聞くのも得意でとにかく話が尽きない。


「生姜、ですか」

「今日は少し冷えるからと思って。苦手だった?」

「いえいえ!さんの優しさがピリッと効いてますよ」

「またそんなこと言って」


冗談を交えて、最近読んだ本の話や旅の話。

甘い香りに誘われて仲間たちが起きてくる。

朝ごはんの時間になる少し前に寝坊助さんたちをが率先して起こしに行って、みんなで朝食を取る。

いつもの光景だった。




「あれ…?」


ただ、この日は違ったようだ。

眠気をたった今冷たい水で流してきたばかりのジュードが居間を見渡して不思議に思う。


「ジュードさん、おはようございます」

「おはよう、ローエン。…あれは?」

「そういえば、今朝はまだ見てませんね」

「え」


出掛けたのだろうか。

薬草でも採りに行ったのかもしれない、と小首をかしげていると、後ろから大あくびをしながらアルヴィンがそれを否定する。


「寝坊なんて珍しいな。こりゃあ槍でも降るんじゃね?」

「アルヴィン」

「よっ。ってことで、声掛けてきてやれよ」

「え、僕?」

「いつも起こしてもらってんだろ?」


にやり顔で言うアルヴィンを「お、という事はアルヴィンさんはミラさん担当ですか」とローエンが黙らせる。

過去にファイアーボールでお気に入りのバンダナを燃やされかけた時の事を思い返しているのだろう。

アルヴィンは顔が引きつっている。


『てなわけで、任せたぜ優等生』


半ば押し付けるように言う彼。

断る理由もなく一直線に彼女の眠る寝室の前に立っていた。

夜間、眠れないエリーゼがいつでも入ってこれるように鍵は開けたままで、軽いノックの後に一歩、足を踏み入れると彼女が寝る前に焚いたのだろう、ほんのりとアロマの香りが漂う。


、朝だよ」


声を掛けながら、カーテンを開けると朝日が部屋の中に降り注いだ。

タオルケットの中の彼女はラフな部屋着姿で、ジュードが肩を揺すると「ん」と眉根に皺を集めて身じろぐ。

薄く開いた瞼から自分と同じ褐色の瞳がちらりとのぞいた。

二度、三度瞬きしたところで、目をこすりながら体を起こす彼女はやっぱり他の女性陣に比べていくらか寝起きがいいようだ。


「…」


そう思ったのもつかの間、片手で目をこすり、もう片方の手でジュードの衣服を掴んだかと思うとぐっとそれを自分の方に引き寄せた。

バランスを崩すようにジュードがベッドへ一歩近づき、彼のお腹部分にの頭が埋まる。

甘える様な仕草に、動揺しながらもそれを振り払うことはしなかった。


「え、ちょっと…?」

「んん…」

「起きて、。ほら、えっと…」


お腹に顔を埋めるの肩が揺れる。

見下ろせば押し殺すように笑う声。

そこではじめて確信犯であると気づく。


「こーらー?」

「ふふ、ジュード君すごくドキドキしてる」

「……はあ。こういうの、他の人にしちゃ駄目だからね」

「ジュード君ならいいの?」

「もう、バホ!」


顔を真っ赤にさせて怒ると、背中からやはりクスクスと笑う声が聞こえてくる。

完全に、からかわれている。

同い年のくせに、彼女の方が余裕があって悔しい気分だ。


「嘘、しないよ。ジュード君だからするの」

「…………」

「怒った?」


そう尋ねながらも、ジュードがまるで怒ってないと知っているかの声色だった。

一枚も二枚も上手なこの関係はなかなか変わらないらしい。

それでも今日ばかりは少し癪なので、ジュードはお返しと言わんばかりに彼女の腕を攫って、ベッドに座る彼女の額にキスをした。


「わ…っと」

「これでおあいこだからね」


言い逃げるようにして部屋を後にする。

一枚扉を挟んで顔を真っ赤にする2人の姿が朝からみられたそうな。














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