(2020.03.04)(過去Web拍手掲載夢)
知りたい
「隣いい?」
基本的に面倒見のいいお姉さん気質の彼女が自分から甘える事は滅多にない。
だからといって常日頃から気を張っているというわけではなく、彼女にとって誰かの力になれる事や頼りにされるという事が純粋に嬉しい様子だった。
世話焼きがやたらと多いメンバーだが、そんな面子を甘やかすのもいつしか彼女の役割となっており、ちょっとした我儘や相談でも「全く」なんて呆れながらも聞いてくれる。
甘やかし上手なのだ。
「ええ、どうぞ」
「ありがとう。何の本を読んでたの?」
「フロントにあった児童文学をちょっとね。エリーに話してあげようと思って」
背もたれにだらりともたれ掛かってリラックス状態で読書中の彼女はジュードの言葉に二つ返事で快諾する。
少し空けてもらったスペースに腰を下ろすと、何冊か積み重なった本の背表紙を眺めるジュード。
確かにどれも小さい頃に読んだり、聞き覚えのあるものばかりでイル・ファンの頃は薬学の類ばかりを読んでいた彼女が珍しいと思ったが、理由がわかればあっさりと納得できた。
最近特にいろんなことに興味を示しだしたエリーゼやティポにこたえるには色々なジャンルを知っていなければならない。
「きっと喜ぶと思うよ。僕もどれか読みたいな」
「…ならこれとこれはもう読み終わってるからお好きにどうぞ」
「はどっちが好きだった?」
「そうね…」
読みかけの本は開いたまま、がジュードの手にある2冊に視線がいく。
見ただけでまるで写真のように目に焼き付けることが出来る彼女はきっとその表紙を見ながら内容を思い返しているのだろう。
少し考えては彼の右手にある渋みのある赤い表紙の方を手に取った。
「どちらも好きだけど、しいて言うならこっちね。話が進むにつれて挿絵の表情が変わっていくのが面白かったし、テーマがわかりやすくてメッセージ性もあって私は好き」
「そっか。じゃあこっちを読もうかな」
「…ジュード君の好みかは知らないけど」
つん、と言う。
これの甘え下手な彼女の癖のようなもの。
大人ばかりがいる中で育ったせいで、胸のどこかで“自分が駄目にならないように相手を適度に突き放そうとする”のだ。
はじめのころはその棘のような雰囲気や物言いにいちいち傷ついていたが、今では何も恐れることはない。
「の好きなもの知りたいんだ」
ならば嘘偽ることなく真っすぐと思ったことを伝えればいいだけのこと。
ジュードは屈託ない笑顔でふっと微笑むと、彼女はぱちぱちと瞬きをして
「勝手にすれば」
と本に目線を戻した。
嬉しさをこらえきれないのが彼女の口元によく出ているのを指摘するように顔を覗き込むと、今度は表情を見せないように彼に背を向けてジュードに体重を預ける。
の体を肩で受け止めながら、ジュードは意地っ張りな彼女が選んだ本を満たされた気持ちで一頁、ひらりと捲った。
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ぽちり