(2020.09.09)(原作後)(9周年おめでとうございます)









 朝食









ル・ロンドが朝を迎える。

温かな日差しと朝を告げる小鳥のさえずりを受けては閉ざしていた瞼をうっすら開いた。

身じろいだ腕が触れたのは、隣ですよすよと眠る愛しい恋人の姿。

大好きな蜂蜜色の双眼が隠れてしまっているのは惜しいが、本当に同い年とは思えないほどに整った顔立ちに頬を緩める。

普段から温厚で平和主義な彼が寝ている時はそれ以上にあどけなく、幼く見えてしまう。

これが医学校の研究発表や、戦闘の時になるとがらっと目つき顔つきを変えるのだから男の子というのは末恐ろしいなとさえ思う。


「ん…」


頬にかかった黒髪を払った際にほんの少し彼の眉が顰められた。

窓から差し込む朝日のせいか表情の変化一つ一つが見てわかる。

普段は恥ずかしさもありまじまじと見つめる事なんてできないから、ここぞとばかりに目に焼き付ける事で自身の欲求を満たしていく。

少し伸びた柔らかい黒髪。

猫のようにつり上がった目じり。

鼻のラインから、薄く開いた唇にかけて視線を落として、そして首元まで降りたところではっとなる。


「…っ」


おおきく首元のあいた白いシャツの隙間から覗く赤い印と歯型の痕。

今は隠れて見えないが、きっと背中には必死にしがみ付いていた名残の爪痕も残っていることだろう。

昨晩の行為を思い返して、頭にかっと上る熱。

頬の熱を誤魔化すように彼の胸元に顔を埋めると、腰を引き寄せられ頭上から笑みがこぼれた。

驚いたように見上げると細められた優しい目で微笑し、前髪をかきあげてキスを落とす彼。


「ジュ、ジュード君…起きてたの」

「ちょっと前にね。可愛いことしてたから起きるタイミング逃しちゃって」

「もう、ばか」

「ばかでいいよ」


亜麻色のの髪をかき上げたかと思うと頬に触れてキスをする。

離れた時に一番近くに映るのは私の大好きな蜂蜜色の優しい瞳。

見つめられているだけで目が離せなくなって、胸がきゅんとした。

キスなんて昨晩数えきれないほどしたはずなのに、その一回一回が特別で、その度に彼に恋をする。

何度も重ねられたそれに昨晩の熱を思い出して頭の奥がとろけてしまいそうになる。

最後の一回が離れると、彼もまた名残惜しそうに微笑した。


「辛くない?」

「え?」

「ここ。昨日頑張らせちゃったから」


頑張らせちゃった、の言葉でまたかっと頬に熱が帯びる。

ジュードにさすられた腰は確かに寝返りをうつたびにぎしぎしと痛んだが、久しぶりに再会した喜びを思えば大したことないと思えた。

ローエンの働き掛けもあって無事に医学校で勉学に勤しむことが出来るようになったジュードに休みはない。

通常の勉学に加えて今は源黒匣についても領域を広げていると聞くから彼の負担は今まで以上なはずなのに。

そんな多忙な中でも合間をぬうように故郷であるル・ロンドの実家に顔を出し、の住む家に立ち寄ってくれるのは本当にありがたい事なのだ。


「平気よ、これくらい」

はすぐそう言うから」

「本当に平気。それよりジュード君に久しぶりに会えたことの方が嬉し……んん」

「ほらすぐ僕を甘やかす」


本当に甘やかしているのは彼の方だというのに、根底から世話好きお節介好きな彼は無自覚にそれをこなす。

と言えば全ての戦いの後は両親と住んでいたこの家に戻り片づけをしたり、体調の様子を見ながらジュードの実家を手伝ったりする程度。

来てもらってばっかりだから、私の方からもイル・ファンに会いに行くと伝えてみればやっぱり心配性な彼は「僕が会いに来たいんだ」と言い、いつもうまく言いくるめられてしまう。

草食系男子の代表だった彼なのに、両想いになってからは彼の愛情深さに驚かされてばかりだなとは思った。


はこのまま休んでて。簡単な物でよければ何か作ってこようか」

「ねぇジュード君」

「ん?」

「もう少しこうしてたいけどダメ?」


半身起き上がらせてキッチンに向かおうとする彼を袖を引いて引き止める。

甘えるようにそう尋ねると、彼は一瞬固まってそれからほんの少し困ったように頬を掻いた。


「……えっと、ダメじゃないんだけど。これ以上一緒に居たら手を出しちゃいそうだなって」

「…」

「ご、ごめん」


哀しいかな男の性。

あれだけ昨晩求め合ったというのに、と言われてしまうとぐうの音も出ないが久々の再会、愛しい人と向かえる朝、甘えられているというこの状況。

どれをとっても据え膳と都合よく思ってしまうのを脳裏の片隅に押しやって、彼女と久しぶりに過ごすオフの為に朝の支度を始めようとすると、くい、と腕を引かれて彼女を見やる。


「……朝ごはんにフレンチトースト作ってくれるならいいよ」

「う…。お昼ごはんになったらごめん」

「え。…きゃっ」


夜とは違いの表情も仕草も、自身が付けた所有印もよく見えるこの状況。

ぱち、と何かが弾けてしまうとそれからは一瞬でシーツに包まる彼女ごと包み込んで腕の中に閉じ込めた。


休みの日を2人でゆっくり過ごしにはもう一日多めに今度から休みを取ろうと思うジュードであった。














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