Angel's smile
すべてがアイツの思い通りに――…
炭鉱都市ナルシェ 1
炭鉱都市、ナルシェ。
町を覆い隠すほどのこの山脈は、いつでも雪が積もっている。
そしてそのすぐ近くを、様子を伺うかのように4体の魔導アーマーが待機していた。
うちの一体を操縦する、はほぅ、と白い息を吐いた。
「どうした、寒いのか?」
「…」
「よせよ、ウェッジ…。ソイツには感情がない、らしい。」
「…あぁ、そうだったな…。たしか…ケフカが用意した帝国兵100人をたった5分で…」
ウェッジはそこまで言って口を閉ざす。
何かを思い出したかのように驚愕の表情を浮かべて、目を強く瞑った。
ビックスも同様に顔を引きつらせている。
「…まぁ、ここで言っても仕方ないな…いくぞ」
ウェッジはそういって、魔導アーマーをナルシェの方へ向けた。
ガシャン、ガシャン…
一歩一歩踏み出すたびに、機械の熱が足元の雪を溶かしていった。
+
短い桜色の髪が風になびく。
はそれにあえて気づかない振りをして、風に遊ばせておく。
目の前にはビックスとウェッジの後を同じスピードでついていきながら、
後方にに盗み見るように視線を当てると、無表情…
そして、虚ろな瞳をしたティナが同じようについてきている。
「(…ティナ…)」
彼女の翡翠の瞳を見て、浮かんでくるのは謝罪の心。
そして、非力な自分を恨めしく呪いたくなった。
“ソイツには感情がない、らしい”
さっき話していたビックスたちの会話で、少し過去のことを思い出した。
“ 裏切り者 ”
憎しみや悲しみ…
さらに哀れみなんかの負の感情がぐちゃぐちゃにかき混ぜられたような黒い言葉。
誰かの手のひらで転がされているような…
きっと私に自由はないんだな…という喪失感
そこで一度思考をとめて、襲い掛かってきたガード達にサンダーを浴びせた。
+
「ここだ…」
ナルシェの街のさらに奥…
炭鉱の奥に今回のターゲットはいた。
おそらく鳥―…
それも赤、青、黄色の美しい羽を纏っている。
―氷づけの幻獣。
「…」
はその視界の中央に入れて、言葉を失った。
―…キィィィイイン…―
「…っ」
氷付けだった幻獣が一瞬光を放った。
冷たくて、
悲しくて、
でもどこか暖かくて、
懐かしい…
は気づかぬうちに、ペンダントのトップを握り締めていた。
「おい、どうした。――…。な なんだ この光は!……うわわわわっ!!!」
「な なんだー!?ウェッジ、おい、どこへ消えてしまったんだ?あっ、か からだが!!」
再び光を放ったかと思うと、一瞬でビックスとウェッジを消し去ってしまった。
姿すらその場に残さない…恐ろしいほどの魔力…
「…………怖い、…」
かろうじて声に出たのはそんな言葉。
―…キィィィイイン…―
ドクン、ドクン…
脈を打つ身体。
金縛りにあったような…
殺気にでも当てられたかのように、は動くことが出来なかった。
じわじわと、身を焦がしていく。
次の瞬間、の目の前が真っ暗になった。
+
…、
……
…目を覚ますのよ…
……
鈴を転がしたような優しい声。
思わずうっとりとした気持ちになって、表情に微笑がこぼれる。
―…お母、さん…?
+
「…気が付いたようだね…」
老人の声が近くの方から聞こえて思わず身構える。
―ティナの姿さえ見なければその場で魔法を詠唱してしまいそうな勢いだ…
「…………ティナ!」
隣に横たわる見間違えることのないティナ。
は老人のことなどそっちのけで、ティナの元に近寄った。
「あ、よかった………」
ティナの頬に赤みが帯びていることにほっと胸をなでおろし、
は老人の方に向きなった。
「ティナから操りの輪を外してくれたのはあなたですか?」
「…!…そうだが…。…………君にはついていなかったな」
「僕は自分の意志で帝国にいましたから…」
ティナのグリーンの髪をそっとなで、頬を緩ませる。
「味方だと、信じていいですね…?」
真剣な眼差しに当てられ、老人も真剣に見つめかえす。
「あぁ。どうか、信じて欲しい」
力強い、その言葉にも強く頷いて見せた。
そして、「ありがとう…」と心からの礼を述べた。
「です…。感謝します」
「…ジュンだ」
自分へと差し伸べてくる手を見つめては少し戸惑っていた。
躊躇いを見せるに、ずっと差し出されたままのジュンの右手…。
せっかくの好意を踏みにじることができず、は同じく右手を差し伸べた。
はその時、自分の中で何かが壊れていくような気がした。
あとがき
とりあえず一話目を更新!
ティナがちょこっとだけ登場させることができました。
追加設定で、ラファエルは過保護なほどティナが好き!