Angel's smile



















右の手を差し伸べたら…君は其れを掴んでくれたね――・・・















 炭鉱都市ナルシェ 2















暗くて足場の悪い道をひたすら進む。


背後には敵。


つかまれば終わり・・・





ナルシェの住民が掘ったとされるこの炭鉱には少なからずモンスターもいる。


左手にはソードを・・・


右手にはティナの手をしっかりと握って、僕はただこの場を切り抜けることだけを考えていた。










 +










あの後、ジュンと握手を交えたすぐ後にティナの意識が回復する。




「ここは・・・」




きょろきょろと辺りを見回し、僕たちを見つけると怯えたように身を硬直させていた。




・・・僕を・・・


・・・・・・・・・・・・覚えてないのか?




一瞬胸が締め付けられるような名も知らない感情には内心疑問を抱くが、


ジュンが安心させるように近づいたのを見て自分もそれに続く。


…第一に優先されるのは、“ティナ”・・・だ。




「ほう、操りの輪が外れたばかりだと言うのに・・・」




関心気味にジュンはそういった。


ベッドから起き上がったティナはすぐに頭痛を訴え、がくんと膝を折る。


頭部を押さえるティナには手を差し伸べた。




「大丈夫か?」


「えぇ、大丈夫よ…。あなたは?」


「・・・・・・・・・」


「・・・?」


「・・・・・・、・・・僕は・・・だよ」


「そう・・・・・・。わたしは・・・、・・・・・・うっ」




再び頭痛を訴えるティナ・・・


は何もすることができず(というよりどうしたらいいのかがわからず)


ただ、ティナの手を握りしめた。


ティナがゆっくりとその視界を持ち上げ、なにかの言葉を紡ごうとした…


そのとき…




「無理をするな。これは操りの輪…。


 これをつけられればそのものの思考は止まり、人のいのままに動くようになる…」




ジュンがティナから外したばかりの“あやつりの輪”を二人に見せながらいった。


あやつりの輪をしばらく見つめていたティナは一度口閉ざし、


「何も思い出せない…」と小音量で紡いだ。




「大丈夫、時間がたてば思い出すはずだよ」


「うむ…」




の優しさの帯びた口調と、右手に感じる人のぬくもりにティナは再び沈黙する。


暫くしてティナが顔を上げたかと思うとを見つめ言葉を紡いだ。





「私・・・。名前は・・・ティナ・・・」


「・・・うん」





「ほう・・・強い精神力を持っておる」とそれを見ていたジュンが再び感心する。


それとほぼ同時・・・


五月蝿いほどにほえ上げる犬の声と、これまた五月蝿くドワを叩く音に3人の意識はそちらへ向かう。




『ここを開けろ!』


『魔導アーマーに乗っていた奴らを出せ!』




その声がナルシェのガードのものからだと勘付くとは内心舌を打つ。


ティナにいたっては何のことかわからず戸惑いを見せていた。




「兎に角ここをでるんじゃ。わしが説明をしても奴らは聞かんじゃろう…。




 こっちじゃ」




ジュンのとっさの判断にはその後に続く。


そしてに手を握られたままだったティナも自然と足を動かした。


向かった先は家の裏口…




「感謝する」




は一言そういい残し、ドアノブを捻った。










 +










襲ってくるモンスターにソードを薙ぎ払いながら先へと進む。


ティナは魔法での補助を努めている…


話し合いもなしにそれをこなしてしまう二人は


なにか言葉では言い切れない何かで繋がっているようだ。


にケアルをかけながらティナは尋ねた。




はどうして私を助けてくれるの?」




突然の言葉には一瞬言葉を失うものの、落ち着いた口調で答える。




「ティナが大切だからだよ」


「私が・・・大切?」


「そう、大切・・・。」


「・・・・・・・・・ありがとう、・・・」


「……ううん。僕は何もしてないよ」




フフ…とは微笑の笑みを浮かべた。


それがとても綺麗で、ティナもついついつられて微笑んだ。










 +









『いたぞ!』




ガードの声には軽く舌を打った。


足音が1、2人程度のものではないことに気づくと、


ティナの手をとって「走るよ」と一言言ってから走り出す。




『こっちだ!!』




走っていた正面…明かりのあまり届かない角から現れたガード達に2人は足止めを食らう。


まさにはさみうち・・・


後ろからと、前から来るガード兵・・・


双方からティナをかばうようにソードを構える




「っ!」


「え!?」




突然2人の足元が崩れる。


まるでここに追い込むための挟み撃ちだったのか…


と、軽い浮遊感のなかは冷静に判断する。


は咄嗟にティナを腕の中へ納め、呪文を唱えた。




 “ レビテト ”




ふわりと一瞬だけ身が軽くなり、トン、と無事着地する・・・


・・・突撃死は免れた。




「・・・・・・・・・ティナ!ティ・・・、・・・・・・・・・・・・気を失ったか・・・」




じわじわと近づいてくる足音にティナを静かに横たわらせて、


ソードを握りなおす。


そして、意を決するかのようにペンダントを握り締めた。


ガードたちの足音が炭鉱内部に響き渡る――・・・




「手を貸そうか?」




頭上から―というよりさっき落ちた穴から―聞こえてきた知らない人物の声に、


は思わず身を構えた。










落ちてきたのは息を呑むほど美しい銀―――・・・














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あとがき

第二話目を更新です

後もう少しでナルシェ編が終わりますね!(がんばれ私!)
次くらいには本命のロックも登場させることができそうです!
うわぁ…なんか楽しくなってきた[強制終了]
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