Angel's smile
















おやすみのキスを――…















 埋らない溝渠 64














ミュン、




不思議な音響。


魔力がはじける。


刹那に鳴った奏。


余韻が響いた。




「兄さん」




ぬくもりを懐く。


細くて温かい両腕。


そっと抱かれているのは兄。


ほんの少し眠たそうな雰囲気で微笑んでいる。


つられて僕も嬉しくなる。




「うん」


「…うん」




が頼りなく頷いて、僕もまたそれを返す。


寄せられる頭。


僕は背を丸めて受け止めた。


目を細めている兄さんは僕の心臓の音を聞いているようだった。


ゆっくりと瞬いている。


段々とその幅が狭まった。


耳をくっつけて薄く唇を開く。


僕はそっと自分と同じ色のそれに指を通した。


癖のない少し長い髪。


掻き揚げるようにすると隠れていた耳が「今日は」をした。


指反対側に欠片がたまる。


それを地面に払う。


そこには砕けた黒い水晶がきらきら煌めいていた。


僕はそれを見て、それがなんなのかがわかった。


装着すると意のままに操れるという装置。


帝国にいたとき、ティナにつけられていたものと酷く似ている。


ただそれが輪か、珠であるかの違い。


それに操るというよりは負の感情のみを


強くするといったものに近いようだ。


が言っていたことや、行動は全て事実。


そういう意味では、普段決して言うことのない


気持ちを聞くことができてよかったとも思う。









たとえそれが真実でも


偽りでも、だ。









「ねぇ


「なに?兄さん」




兄さん。


そういう度にの表情がほころぶ。


それと全く同じ心境に僕もいた。


嬉しいような、気恥ずかしいような。


けれど今はそれが嫌だとは思わない。




「なんだか疲れちゃったな…」


「そっか」


「もう、休んでもいいのかな…?」


「……」




もう。


は思わず唇を閉ざした。


涙が零れそうになる。




「うん、もう大丈夫、だよ」




もう人じゃないから。


もう怖くなんてないから。


もう気を張ってなくても大丈夫らから。


もう窮屈はしないでいいよ。


たくさん頑張ったね。


だから。




「お休み……兄さん」




おでこにキスをおとす。


そっと顔を離してを見ると朗らかな表情をしていた。


遠い記憶で覚えている表情。


懐かしい笑顔。


それが今はちゃんと、ここにある。




「…うん」




自分のほうに重心が乗せられる。


寄りかかるような状態。


が寝息を立てたのはすぐ後のことだった。


ほっと安堵の息をついた束の間。


幻獣が浮遊するカプセルのガラスが砕け散った。




キン、




何度も聞いたはじける音が聞こえて


全ての幻獣が魔石へと姿を変えた。


僕は驚いて目を見開いた。




“ 我々の命はもう長くない。


 イフリートと同じように死して、お前達の力となろう… ”




そして全ての魔石がの元に集う。


様々な色の珠の輝き。


導くように左手を上げると、それを目印に魔石たちが集まった。


両手じゃないと零れてしまうそれをは大事そうに抱える。




「ここの、つ…」




ともる光。


僅かに残る手の中のぬくもり。


いずれは消えてしまうけれど。




……」




ロックが声をかける。


はいつも通りにくぃ、と口角を持ち上げて


握りこぶしを作った。


それを見たロックも作って、お互いの拳をトンと触れさせた。


全てを取り戻した


ならばこんなところにも用はない。


後は地下まで降りてトロッコに乗り込めさえすれば


すぐに帝国を脱出することができる。




否、それがかなわなかった。









「そこで、何をしている!」














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あとがき

64でっすゎ(おかしいwww

別に魔石のことは忘れてたわけじゃないですよー(汗
ちょっとやりたいこと先にてつけちゃって
なかなか入れ込めなかっただけなんですー(滝汗;;;

兄様覚醒(○'ω'○)
個人的にメッチャ好きなキャラなんですよ。
活躍させたいなー(手かさせる方向で考えてますが(あ

てか気づいた方もいるかもですがサブタイトル変わりました。
埋まらない溝渠(こうきょ)……溝渠は溝とか穴とかって意味です。
↑そのままですが。

ベクタ脱出までですからすぐ終わりそー(●´▽`)ナハハ
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