Sunny place

















 15














荒い呼吸をしながら腕から口を離す。


今まで口があった底にはくっきりとした歯形が残っていて


かすかに血がにじんで見えた。


じわりじわりと痛みが全身に伸びていく。


左腕を押さえるようにしている彼女にはまだ痛みが伴うのだろう。


くっ、とクレスが奥歯をかんでソードを握り締めた。


がはっとなって、首を横に振る。




「やめて!クレスのおにいちゃん!!」


「……ッ、!」


「……お父さんに手を出さないで!」


「……!!」




お父さん。


その言葉はクレスも、そしてチェスターの顔も歪ませた。


奥に居るモリスンに関してはただ複雑そうに顔を渋らせていた。




「早くしないか!!!」


「………」




と呼ばれた男は剣を血で湿らせたまま


つかつかと全員の真ん中を横切る。


人を近づけない冷え切った瞳は移るもの全てを恐怖させた。


そしてダオスの棺桶のもと。


そいつは腕をさし伸ばして剣先のしずくを一滴、こぼした。


その刹那。


眩い光が棺桶の隙間からあふれ出した。


王の誕生。


マルスはそう叫んだ。


ミントに法術をかけてもらいながら、はただ一心に父から目を離さなかった。


離せなかった。




「しまった」


「おおダオスよ」


「………」




全員の視線はひとつのものに注がれた。


あふれる光が束になって映る。


その光が落ち着きを取り戻し、そのうちから人物を映し出したとき、


全員はあまりの圧迫感に凍りつく思いだった。


ただ一人を除いて。




「寄るな、汚らわしい。私を封印した者の命を奪い


 封印をとく石を奪わせたのは他でもない私自身なのだ。もはやお前は用済みだ」




マルスがダオスに歩み寄ろうとする。


一歩。


それが彼が進むことのできた距離だった。


たった一歩のうちに、あるものによって静止させられたのだ。


ダオスではない。


けれども、ダオスと同じ意思を持つ人物。




「邪魔者は消えました、ダオス様」


「ふ…ウィル・、か」




ダオスの前で膝まずいたウィル。


はそれを複雑そうに目で追う。


チェスターが皮肉気味に「俺たちの敵を討ちやがった」と吐いた。


それ言葉が耳に届いたのはダオスも同じだったようだ。


き、と全員をにらみ、威嚇する。




「私が背負った重大な運命を知りもせず、私を封印した憎き人間どもの生き残りめ……


 とても許されるものではないぞ!皆まとめて殺してやる。


 永遠の闇をさまようがいい」




そう言い放ってダオスはなにやら指先に集中し始めた。


光が集い次第に大きくなっていく。


ヤバイ。


それだけは全員察したようだった。


ミントはモリスンにどうしましょう、と問う。


モリスンは奥歯をかみ締めながら仕方ない、といった。




「やつは剣では倒せない。四人ともよく聞くんだ。今から君たちを法術で、ある場所へ送る。


 そこでヤツを倒す方法を学んできて欲しい」


「どういうことです?」


「……。説明している時間も、それより他の方法もない。


 クレス君、この本を持っていってくれ」


「は、はい」




片手にはモリスンの本を受け取り、もう片方にはの右肩に触れて支えてやる。


そうこうしているうちにダオスのきは十分なほど高まったようだ。


けれどもモリスンの詠唱にはもう少しの時間がかかる。




「ふふふ、死ね!」


「だめだモリスンさん、間に合わない!」




チェスターが一度と目を合わせた。


左肩を抱き、苦しそうな彼女。


そして、奥歯をかみ締めた。


がえ、とこぼした。


つなぎとめようと不意に手を伸ばす。


指先を懸命に伸ばした。


けれどもその華奢な指が何かを掴むことはない。


息を飲み込んだ。




「チェスターッ!!!!」





詠唱が終わる。


光が満ちる。


彼が遠のく。


光がまぶしい。


視界が途切れる。


真っ白な世界だった。




嫌だ。




嫌だよ。














もう置いていかないでよ














 +









チェスターの体当たりを食らってダオスは一瞬だけひるんだ。


けれどもそれはほんのわずかの一瞬で、


すぐに怒りの矛先はチェスターへと集まった。




「おい、しっかりしろ!」




法術を使い終えたモリスンがはじかれた彼の体を支えながら


それでも絶体絶命のこの現状に向かい合う。


ほんの僅かな可能性にかけては見たが、あくまで、僅かだ。




「やつらをどこへやった」


「答えるものか」


「ふふ……知っているぞ。あの光は時空転移の光。


 どうした、自分自身は送り損ねたか、未熟者め。ここで朽ち果てるがいい!」




再び集った光。


もうこちらに打つべき手がない。


勝てる見込みがない。


モリスンの瞳が大きく見開かれた。




焼きつくほどの光が自身へと降りかかる。














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