Sunny place

血の描写があります。















 14














村を離れるとき、少しでも抵抗がなかったかといえばそれは嘘だ。


私を長い間育ててくれた村だ。


そして何より、




『 ちゃんと迎えに来るから 』




父の託がなんども頭をよぎったから。









 +









以外にもあっさりとそれは私の体を貫いた。


一瞬音が消える。


目の前にいる懐かしの彼は相変わらずの無表情で返してくれた。


涙が出る。


肩に響く痛みで。


あえたことの喜びで


現実という悲しみで。




「なん、で……?」




膝がまず緩んだ。


力なくしゃがみこんで彼を見上げる。


目に映ったのは道端に落ちた小石を見下ろすときのような


傍観的な視線。


喜怒哀楽の含まない無の表情。


口が、笑っていない。


あれ?


私は疑うようにそう呟いた。




「どうし…て……?」




ズッ、


と嫌な音がした。


左肩から剣とともに赤い液体が噴出す。


皮肉にもゆっくりと時間が流れた。


だんだんとそれは遅くなって止まってしまったよう。


ただ赤いそれだけが静かに地のほうへと落ちていって


ぽたぽたと飛沫をつくった。


傷口から開放された血液が外へと押し出される。


とろりと垂れて服にしみを作る。


私は彼から視線がはなせなかった。


暗黙のとき。


ぴり。


左全身に痺れを感じ、は咄嗟に右腕を噛んだ。


地下墓地に残ったのは少女の苦痛な絶叫。


空洞内で木魂した。














ふわり、と悲しい現実に醒めてしまう。


幻への期待。


現への憎悪。


幻滅の時。









どうして?




どうして?




ねぇ、




どうしてなの?




何で、




父さんが、




いるの?






何で父さんが、




剣を、




私に、




向けたの?






ドウシテ?




ドウシテ?




ドウシテ?














『お前、親父に見捨てられて、悔しくねぇのかよ』




いつだったかも覚えていないずっと前のいつか。


チェスターが歯を食いしばるようにしてそういった。


私は彼の悔しいという言葉をうまく理解できなかった。


ただ目を見開いて不思議と首を傾けるだけ。




『どうして悔しいの?私は見捨てられてない…よ?


 きっと仕事が忙しいんじゃないのかな。お父さんは約束破ったりしないもの、』


『じゃあ、なんで、なんでずっと来ないんだよ!』


『だからそれは……』


だって本当は思ってるんだろ?


 このまま来ないんじゃないか≠チて!来なかったらどうしようって!


 約束守らなかったらどうしようって!本当に捨てられてたらどうしようって!




 独りぼっちになったらどうしようって!!!』


『………』




反論することも忘れて私はただ呆然とそれを聞いていた。


何を言っているのかさっぱりわからなかった。


どうしてそこまで感情的になるのか、も。


チェスターが吐き捨てるようにいうひとつひとつの言葉が


酷く滑稽で、愚かで、それがとても愚問で、すこし不快だった。


でも、




『俺たちは…俺は…、俺なら……ッ!!                 』




途切れた言葉。


否、途切れてしまったのは私の記憶のほうだ。


思い出せない。


忘れてしまっている。


欠けた記憶。


曖昧に濁る。


今までずっとそばにあったはずなのに。


あれ?


なんて言ったんだっけ?


彼の言葉の続き。


とても力強くて。


彼が滅多に言ってくれない言葉だったような気がするのに。


記憶が曖昧。


都合よく覚えてる。


都合よく忘れてる。


あれ?


どうして?


ドウシテ思い出せないのかな。









『 ちゃんと迎えに来るから 』









父さんは、ちゃんとそう言ったよね…?














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