Sunny place

















 24














三人がアルヴァニスタへと旅立って三日がたった。


時間がたつのは早いものだ。


の中でもずいぶん心のゆとりが出来、


修行のほうもだいぶ目処がついてきた。


初期魔法のレベルならば容易に繰り出す事ができるほどに、だ。


彼女の実力も段々と実践的なものへと変化している。




… アイスニードル …




叫ぶやいなや。


振り上げた指先から凍りの刺が狙った的へと放たれた。


カリンカリン、と氷の砕ける音がするのは勿論狙った的。


はほっと胸をなでおろした。




(大分詠唱時間が安定してきた、かな。……でも、まだ長い)




ホッとするのもつかの間は自分へのハードルをあげる。


まだまだこんなものではないはずだ。


もっと。


もっと、自分を高めよう。




(もう――)




目を閉じて呪文を詠唱する。


先ほどよりも正確に、すばやく。


実践でも使えるように、確実に。




(足手まといにはなりたくない――!!)









 +









ベルアダムに戻ったはレニオスの奥さんが


体調を崩していることに気がついた。


明らかに顔色が優れずこほこほと喉を鳴らしていて息苦しそうだった。


は吃驚しながらも昔、自分が風邪を引いたときに


チェスターがしてくれたことを思い出すようにして行動した。




「ごめんなさいねぇ、心配をかけてしまって…これくらいなんでもないのよ?」


「風邪を甘く見ちゃいけないってチェス…おにいちゃんが言ってたよ…?


 待ってて、薬とって来るから」


「あらあら、薬はちょうど切らしてしまったの…」


「じゃ、じゃあ!私買ってくるよ…!…えっと…」




ベルアダムの村の地図を脳裏に浮かばせては小首をかしげる。


そんな彼女を手助けしたのは奥さんのほうだった。


寝室のベッドに横になりさっきよりは表情が柔らかい。




「この村に薬屋はなくてね。いつもは商人から買いだめをしているのだけれど…


 …ローンヴァレイに行けば買うことができるのだけれど…遠くてね」




最近は物騒だし、と奥さんはため息をついた。


はテキパキとした手つきでおかゆを作り


とり皿に盛り付け杓文字とともに手渡すと


「ローンヴァレイ…」と呟いてそれから少し思慮した。




「私…行ってくる!ローンヴァレイまで」


「…大丈夫かい?近頃は物騒だよ?」


「大丈夫」




安心させる為に大丈夫といって笑ったものの、


内心大丈夫かなんてわからない。


1人でトーティスの町を離れたことは…まぁあるけど…


それでもあの時は途中から追いかけてきてくれたチェスターが一緒だった。


だけど今は…。


は内心首を振った。


もう足手まといになりたくない。


1人でだって、戦える。


大丈夫。




「じゃあ1000ガルド渡しておくから…お使い頼んだよ?」


「うん!…すぐ戻ってくるから、その間ゆっくり寝ててね?」


「はいはい」




お使いをまかされるなんて、なんだか新鮮だ。


母とこの会話のような感じがしての心はちょっぴり軽くなった。


は種を返すと玄関口で主人の帰りを待っていた


リーフェにローンヴァレイに行くことを告げて早速支度を始めた。


アップルグミに魔術を使うときに念の為にオレンジグミも持っておく。


ソードを背負い、ベルトを胸元で締め、


左耳のピアスをもう一度指先で確認した。


それから箒を軽くはたいて砂埃をはらって、準備は完了。


箒にまたがりひょい、っと地面をけると箒はいとも簡単に


を空中へと誘った。


リーフェを膝の上に載せて頭を一撫でした。


南の森とは逆方向の門を抜けると広大な草原が広がっていた。




「クレスのお兄ちゃん達も通った道…」




箒の先は目的地である場所を示しながら進んでいる。


風が後ろへと流れて自然と髪が踊った。


緩くウェーブを描くミルクティーのような色の髪。


緑色のリボンは誕生日に彼からもらったものだった。


彼がくれたものを身につけているだけで、


なんだか守られている気がして心強く感じた。




『主』


「わかってる」




草原の茂みからこちらを威嚇するように睨んでいるモンスターたち。


は利き手である左手でソードの柄を手に取った。


ぐっ、と強く握ると箒から地に降り立ちソードを下段に構えた。




「かかってきなさい…!」




襲い掛かってくる牙や爪をさらりと交わし、


は一匹ずつ確実に切り払っていった。


油断もなければ容赦もない。




(もう、逃げないから――)














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