Sunny place

















 23














村長の家での一泊。


夕食を交し合いながらお互いが今まであったことなどを話し合っていた。


クレス側からはクラースが仲間に入ったときの話から始まり


彼が召喚師で、幼馴染のミランダとともに貯めたお金で


宝石のついた指輪を手に入れ、指輪と精霊を契約させて


精霊の力を一時的に使う。


という召喚しについての補足へと話は流れた。




このとき一番クレスが驚いたことは、が彼の話す話についていけていたことだ。


否、勿論すべての話がすんなり消化できているというわけではないのだが、


わからなければ質問をするし、逆に理解が出来れば


難問が解けたときのようにうれしそうにしていた。


ずっと小さな村でともに毎日を暮らしていた二人なのに、


たった三週間で追い抜かれてしまったような感じがして


クレスは少し寂しく思った。


けれどもこれも、彼女が彼女なりに考え、実行した結果なのだろう。




一通り夕食が終わるころ、クレスたちの話が終わった。


そして流れはそのままのほうへと移る。




「ではさんは、この三週間ずっと知識の教養を?」


「う、うん…。でも教養って言うほどの事はやってないかな…。


 四六時中本を読んでいたってわけじゃないし、毎日剣術の鍛錬もやってから…」


「へぇ、それは感心。…僕もうかうかしてられないな」


「そ、そんなことないよ!…やっぱり実戦と稽古じゃちがうもの」




他愛のない話。


唇をかみ締め目を伏せる彼女。


伏せられた瞳からはわくわくとした様な好奇心があふれ出している。


早く実戦に加わりたい。


早く皆とともに行きたい。


そんなところだろう、とクレスは思い微笑んだ。


行き着く先には、きっと彼の事があるのだろうと思うと思わず笑っていた。




「魔術のほうは順調なのか?さっきは箒で飛んでいたようだが…」


「順調…だと思うのですが、実践で使えるような力はまだないんです。


 箒も最近乗れるようになったばかりで……」




クラースの質問には思わずしり込みする。


村長に言わせて見れば彼女の成長は中々に早いものがある。


クォーターエルフは本来純粋のエルフの4分の1程度の血しか通ってはいない。


そのためか魔力が少なかったり、コントロールが難しかったりと


魔術の発動以前に魔術を使えないものまでいるという。


それに比べてみれば彼女は相当努力したほうだといえよう。


実践レベルの魔術が使いこなせるようになるのも、時間の問題だと村長は言った。




「まだ…一緒には行けないのかい?」




本当に寂しそうに言うものだからその空気に流され、


思わず今言った言葉を撤回しそうになった。


けれども現実は現実。


そんな甘い話ではない。


は渋りながらもうん、と頷いた。


そっか、とクレスが言う。


ミントもぎこちなく目を伏せた。




「…じゃあ三人は、これからアルヴァニスタに向かうんだね。


 モーリア坑道は、確かアルヴァニスタの王の許可証がいるらしいから、気をつけてね」




アルヴァニスタ、とは魔術が栄えた都市だ。


さらさらとした口調でが言って、


クラースはすぐさま手帳のようなものに書き記した。


が最後に付け加えた「アルヴァニスタにはベネツィア経由」という言葉も


そこには書きとめられていた。


膝の上でリーフェが丸くなって眠っている。


時折背中を撫でると気持ちよさそうに身じろいだ。


食器を片付け終わったテーブルは妙に広く感じて少し寂しかった。




「――追いかけるよ」


「…え?」


「私、魔術をちゃんと使えるようにして、皆を追いかける。


 ――待つのも、待たせるのも、もう嫌だもん…」




待っていてね。


と父に言われた。


10年ぶりの再会は最低なものだった。




待ってるから。


あの時彼にそういわれた気がした。


抗えなかった自分を、悔いた。




自分はどれからも逃げたんだ。


弱かったから。


力がなかったから。


そのくせして、望む事だけはするんだ。




今なら。


少しだけ向き合える。




「――そうですね。さんなら、きっと習得できますよ。私、待ってます…」


「!…ミントのお姉ちゃん!」




ミントがイスに座っている彼女の手を握り締めた。


片方の手を、両手でしっかりと繋ぎとめる。


は少しだけ頬を紅く染めてはにかんだ。




久々に彼女が見せるはにかみ笑顔だった。














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