Angel's smile
ナルシェに別れを告げて、私達は歩き出した――…
炭鉱都市ナルシェ 4
モーグリ達の声の余韻が終わるのと時を同じくして、
ロックはティナを抱えて走り出す。
「逃げるぞ」というアイコンタクトで、彼の意図に気付き、
は黙ってこくんと頷いた。
…モーグリ達が足止めしてくれるようだ。
「モーグリたち…、恩にきるぜ!」
「…。
まだ…、早いみたいだぞ」
くるり、と身体の向きを180°変える。
あれだけの大群モーグリたちの隙間から2、3人のガードかこぼれ出てくるのに対した。
…流石ナルシェノガード兵というべきだろうか…
は慣れた手つきで両手の指同士を合わせる。
バチッ、と手の周りが放電したかと思うと、はここぞ、というタイミングで両腕を肩幅まで開いた。
――… サンダー
指先から光る小さな雷光が、ガードたちを襲う。
隣で一部始終を見ていたロックが「おい!」と抗議の声を上げる。
一瞬にして倒れたガードたちに背を向けた。
「殺してない、気絶させただけだ…。一時間もしたら普通にたって歩けるだろ」
「そう、か…」
「(僕だって好きで人を殺めているわけじゃ…)」
「…え?」
「…っ。なんでもない、…………進もう」
その場を振り切るようには先に走り始めた。
+
「たしか、このスイッチで………」
ドン、大きな音が聞こえたかと思うとその場所には大人一人が余裕でくぐれるほどの大きな穴が開いていた。
穴から光が差し込んで、は思わず目を細める。
今まで薄暗い炭鉱内部を歩いていたのだから、当然といえば当然なのだろうが…
ようやく目が慣れてきたころ、ロックがスイッチを押すまでの間、
横たわらせていたティナがゆっくりと身じろいだ。
「………?」
「気分はどうだ…?」
ティナの背中に手を回して、起き上がるのを手伝う。
の問いに「平気」と薄く笑って見せたティナには安堵の息をこぼす。
まだ眠りの余韻に浸っているティナはその視界に、
ロックを入れて警戒するように身体を硬直させた。
「ん?気がついたのか」
助けを求めるようにを見上げたティナに、
「大丈夫」と表情を和らげる。
「わたしたち……助かったの……?」
「そうみたいだね」
「モーグリたちに感謝するんだな」
「うっ……はっきりと思い出せない。
その前も……ずっと前のことも…」
「「記憶がないのか?!」」
見事にロックと…2人の声がはもった。
はバツが悪そうに表情をゆがませながらロックを睨んだ。
…しかしそれはほんの一瞬だけだった。
の瞳がロックを捉えて、その表情に言葉を詰まらせたのだ。
ロックの表情はまるで――…
「でも時間が経てば戻るって…」
「記憶が……安心しろ。俺が必ず守ってやる。必ずだ!!」
「…っ」
「???」
「記憶をなくした……俺は……見捨てたりしない……必ず守ってやる!!」
「…」
ロックの言葉に何か強いものを感じ、はその唇を固く結ぶ。
強く握り締めていた拳と唇をふっと解くと、先ほどスイッチであけたばかりの穴に手をかけた。
「ティナは、僕が守るんだ…。お前の力なんか…必要ない!」
吐き捨てるように言葉を紡ぐと、一足先にその場を後にする。
一方的な態度にロックは「なんだよ…」と不満げに言った。
心配そうな瞳でティナはいまさっきが出て行った穴の方向を見つめる。
「あの…ごめんなさい、怒らないであげて…。多分色々あって、迷ってるだけだと思うの」
「いろいろ…ねぇ」
「は―――………。
……いいえ、なんでもないわ。…行きましょう」
ティナは最後まで紡ぐことなく穴をくぐった。
眩しいほどの光は、きっと皆に注ぐのでしょうから
あとがき
ナルシェ編の終了です
ナルシェ編は四話構成でしたので、ぴったりにまとめることができて嬉しく思います
どうでもいいかもしれないキャラ設定ですが、
はフルバのリンやアキトといったイメージで書いています。
不器用で、つよがりで、でも本当は優しくて…
ちょっとずつ成長成長してくヒロインをこれからも温かい目で見守ってくださいね!